風船はどんどん昇って行く

朝ザーザー雨。午後になって収まり、少し日射し。夜までずっと曇り。

お誕生会に呼ばれた。お誕生会なんてのに呼ばれたのは、何十年振りだろう。子育て中の友人などからは、やたらお誕生会が多くて辟易だなどという悲鳴も時々届くのだけれど、たまに呼ばれるとちょっと嬉しかったりする。

お誕生会の主役は8歳になりたての少女。黒のプリンセスドレスでお迎えしてくれた。プレゼントを渡すと「サンキュー」とはにかみながら言ったけれど、その後はどうも会話が続かない。彼女は英語がまだカタコトだし。私はスペイン語ができないし、というわけで、微笑みと身振りによる会話に突入。というのはこの少女、まだC国に来て2ヵ月くらいしか経っていないのだ。で、お国はどこかと言えば、遥か向うキューバである。この「遥か向う」は単なる距離の遠さじゃないので、C国に来たばかりの母と娘は、ちょっとまだ夢現の模様。

この少女のお父さんは既に4年前にこちらC国にやってきて、学生さんをしていたのだが、子供と奥さんを呼び寄せるまでに4年が経過。その間、家族は一度も会う事ができなかったというからすごい。お誕生会に来ていたのは大人ばかりで、少女の友達らしき年齢の子供は一人もいない。キューバにいる友達が恋しかったりするのかな、と少女の気持ちになってちょっとその感じを想像してみたけれど、彼女はどうやらお父さんお母さんと一緒にいられるだけで、十分に幸せであるらしかった。

ヘリウムガスの入った風船と、やたら楽しそうに遊んでいた。キューバでは風船はあるけど、ヘリウムの入った浮かぶやつは手に入らないのだって。

お誕生会のお客さんの多くは、どこかからC国へ移民して来た人たち。夢と希望と挫折と現実と。少女もまた移民としての人生をこれからC国で始める。イミン。なかなかどうして、一筋縄ではいかない三文字。私は移民ではないのだけど、異国の地に辿り着いてやたらに迷い迷っている身。少女の方が私よりもずっと気丈であるような気がして、何だかちょっと自分の弱さを恥じたりもしながら、彼女の名前の一部が書いてあるアイスクリームケーキの三角形をフォークでつついて、口に運んだ。

数日前に本屋に行った時の戦利品、工藤美代子『旅人達のバンクーバー』を読み始める。しばらく移民のこと、ここVにかつて暮らした日本人のことなどをぼんやり考える日が続きそうな気配。Vとは一体なんなのか。異国の地に辿り着くとはどういうことなのか。何かこの本にヒントがありそうな。