裏の逆襲

書き留めねば、サラサラと日常は指の隙間から落ちてゆく。
忙しいから、などと放っておけば、すぐに三年、五年、十五年の時間が通過していくだろう。
一年程前までは、人間世界というものにほとんど参加していなかったので、
人間界のことで何か記せるようなこと(巷で「仕事」と呼ばれている営みのリスト)は、大変に少なかったのだけれど、それとは関係のない世界を見つめる時間が無尽蔵にあったので、
花を眺めてみたり、公園で弁当食べながらポツンとしてみたり、犬のおしりをやたらに追いかけてみたり、
そして、外にすら出たくない時には(というよりも、外でも内でも、四六時中、視線はどうやら内側を向いていたのだが)、やたらいろんな本を読んだり、ぼんやりしてみたり、湯船に浸かってみたりしながら、心の世界の隅々を冒険していたのである。

さて、一度、人間世界というものに参加してみると、
今度は外側の方は滅法忙しくなって、こんな仕事をしています、こんなモノを発表します、など、形が分かりやすいから、誰に言っても「おお、それはいい」と非常に話が通りやすい表へ出た。ただし、裏の光の当らないところで延々と続けられていた冒険自体というものも、それはそれはエネルギーのいるものでもあり、危険な旅でもあったのだけれど、その部分は人間世界ではどうやら仕事とは見なされはしない。長い間、(そして今でも時々はそうなのだが)私は何もせずにぶらぶらしている人だと向こう側からは見えたはずである。

表の方が忙しくなってきて、裏が空虚になった。
昔は裏ばかりだったので、それがはっきりと分かるのだ。

この→  ←白い空間は、表か裏か。
たぶん、その二つの出あう、ギリギリの線。

心入れ替え、毎日書こうっと。

☆ 五月雨や父の戸棚のジャズを聞く