色の雲

まだ風邪が治らない。足と関節が重くて痛いのは割と分かりやすいんだけど、それ以上に、世界がどこかフワフワしている。全てが夢のようで、少し遠くて、やたらに幸せだ。咳止めとか飲んでませんけどね。

それでも、仕事があって外に出た。ちょい熱っぽい。外は雨。それでも、風邪での体の重さもあり、最初から最高に気分がいいことなんて期待してないので、逆に我慢できる。いきつけの喫茶店に入ると、中は靄が立つくらい温かくて、いくつもの笑顔がそこにはあった。

そうか、風邪の時には、世界の輪郭が少しぼやけて、奇麗なことやちょっと寂しいことなんかも、どれも印象派の絵の色の重なり風に、そのエッセンスだけがポオっと光って見えるのか。綿を千切った形で、笑顔や熱いお茶や、表を通過する人の傘が、純粋な色の雲になって浮かんでいる。こっちは群青色、あっちはピンク、そっちはオレンジ、いや、柿色。重なりのところは、色が透けて混じって、美しい。

人間は受信機であって、その受信機が風邪ウイルスでちょっと狂った時に、それが受信する世界もまた予想を超えて、素敵にズレていて、喉が痛いのは困るけれど、ちょっと楽しいような気もした。

☆ 咳すればピンク色なり春の風邪