KDとの4度目の出会い

ほぼ10年振りくらいに、剣道の稽古をした。まだウチに防具があったのが奇跡的。前に売ってしまおうと思ったこともあったのだけれど、買い手が見つからなかったのだ。

剣道は、今まで断続的に3回やったことがある。初めは、Nの中学校のクラブ活動で。人数が少ないので、男女一緒のクラブで、同学年では女子は5人くらいしかいなかったような気がする。特に厳しかったという記憶もない。男子は強くて大会で勝ったりしてたけど、女子はものすごく弱くて、いつも団体戦でストレート負けしてた。でも、やたらに可愛い子が何人かメンバーにいて、彼女たちの剣道着姿を思い出すと、今で言えば「萌え〜」という感情が浮かんで来る。

高校では剣道を続けなかった。痛いし、寒いし、臭いし、重たいし。女の子がやるスポーツじゃないよな、という結論に到達したから。今思えば、そこから一直線に軟弱な文系の道を辿ったのだった。

二度目に剣道に出会ったのは、お江戸にいた頃のこと。その時にはもうF犬街への渡航がほぼ決まっていて、一年後には旅立つという時期のことだった。F犬街のJ親方が剣道をたしなむらしいと風の噂に聞いた私は、それならば剣道を稽古しなおして、お手合わせ願おうと思ったのだ。変なことを思いつくものだ。まあ、あの当時は考えることが全て変てこだったので、それほどそれが異常な考えだとも自分では思わなかったけど。そして、O線沿線の、時々通りかかると電車の窓から見えるなんとも古風な感じの道場を見つけて、ある日、ガラガラっとその引き戸を開けて、「たのもう〜」と(心の中で)言いつつ、そこでの稽古に参加することになったのだった。

今だったらインターネットで情報検索してからメールで連絡取って行きそうなものだけれど、あの時にはそんな電脳社会はまだ到来しておらず、いわゆる『Shall We ダンス?』方式で、道場の入口を何度かためらって行ったり来たりしてから、心を決めて引き戸に手を掛けたのだった。その道場には着流しの大先生がいらして、先生は道場に住んでいらっしゃるらしく、8時くらいまで稽古をつけた後には、お休みになるのか、道場の奥にすっと消えて行くのだった。あれはミステリアスだったな。ものすごく強い警察官のおじさんや、果てしない段を有した会社の部長さんみたいな方々がその道場では稽古していて、短い間だったのだけれど、ちゃらんぽらんとしている私を優しく厳しく指導して下さった。

Shall We ダンス? (初回限定版) [DVD]

Shall We ダンス? (初回限定版) [DVD]

さて、そして渡ったF犬街。「たのも〜!」と私は叫んでみた。しかし、J親方はもう剣道やってなくて、ちょっと肩すかし。日本から持って行った防具はしばしの眠りにつくこととなった。でも、ある日、なんとアパートの大家さんが剣道をやっているということが分かり、F犬街剣道クラブへと誘われた。ここでの出来事を書き出すと、本一冊分くらいの厚さになってしまうので、本日は省略。

その後、防具は船便でF犬街からVへと送られる運命を辿る。それから8年程、防具は私と一緒に冬眠していたのである。

まさか、またそれを身につける時が来るとは思わなかった。面の付け方とか、なんとなく覚えていること自体が不思議ですらあったけれど、体の方は思うように動いてくれず、稽古の仕方の記憶も曖昧で、随分とまごまごとしてしまった。しかもVの剣道道場の人々は、やたらと強い。稽古の後、手首が見事に青く腫れ上がって、その上、小手が擦れて皮がむけてた。明日の朝、ものすごい筋肉痛に襲われること間違いなし。でも、このボコボコになって帰る感じ、意外と気持ちいい。あの日、あの街、あの場所の時間が蘇る。ヤアッ!

赤胴鈴之助 第1巻

赤胴鈴之助 第1巻

☆ 稽古して帰る背中や寒の月