小さな、とても小さな旅行

あ、雨が降ってない。
これは、最近のVではもうほとんど事件である。
偶々、Vの北にあるNVという街で人に会う約束があって、
シーバスという名前の小さなボートに乗って、海を渡った。
片道10分ちょっとなのだが、天気がいいのも手伝って、これはもう旅だ。

...などと、楽しい気持ちでいたら、会った人と話が弾んで、
16年前くらいのことを思い出した。
どうして、日本を離れてF犬街に渡り、そしてVに辿り着いたのか。
それは16年前の11月末から12月にかけての、
20日間に起こったことと関係があるのだけれど、
要するに、その20日間の前と後では、
私の運命はすっかり変わってしまったらしい。

こういうことは、結構誰にでもあることなのかもしれない。
突然、住んでいた場所から消えて海を渡ったりすると、
大袈裟だからみんな驚くけど、
それほど大袈裟ではないやり方で、
こういうことは、いろんな場所で起こっているんじゃないかと思う。

20日間って、短そうで、とても長い時間なのだ。
この季節が来ると、毎年、そのことを考える。
啓発本のキャッチコピーじゃないけど、
20日間という時間で、たぶん人生は十分すぎる程に変わるのだ。

思い出話をしていて、その当時の記憶が少しずつ曖昧になってきていることにも気づく。
20日間、本当に?
21日間じゃなかった?

帰りの船の中、外はもうすっかり暗くなっていて、
水はどこまでも黒くうねっている。
どうだったっけ、一体どこからどうやって来たんだったっけ。
全てが始まった16年前のあの夜まで辿ろうとして、
そこが思ったよりも遠い場所であることに気づく。

小さな旅のつもりだったのだけれど、
なんだか今日は、随分と遠い場所まで旅してしまった。

☆ 冬の波揺れているのは彼や吾