梅干しデビュー

これは革命と言ってもいいと思う。
世界の中、ありとあらゆる食べ物の中で、
ただ一つ嫌いだった梅干し。
幕の内弁当に何が入っていようと、すべて食べ尽くし、
でも御飯の上の赤いポッチだけはどうしても嫌で、
その赤い丸はなるべくお箸に触らないようにして取り出して残すか、
わーい、と喜んでもらってくれる人にあげるかして、
できればその色に染まった部分の御飯も取り除いて残したいほど嫌だった、
梅干し。

梅干し、ウメボシ、u me bo shiという響きすら、私はもう嫌いで嫌いで仕方なくて、そもそも「うめ」という響きがどうも苦手なのだが(なぜだろう、なぜだ?)、「う」から「め」に移行する辺りはまだなんとか堪えたとしても、それが「ボ」にいく辺りで胸が詰まり、そいつが「し」に収束するところでは、もう周りが暗く見えるくらいに嫌悪感が沸き上がる。

前世に巨大な梅干しに押しつぶされたとか、あるいは、私はある時、壷の隅に張り付いて、いつまでも日の目を見ることなく朽ちて行った悲しい梅干しであったのかもしれない。

大袈裟に聞こえるかもしれないが、意識・無意識・身体の全てのレベルで「梅干し」という響き、存在、姿、味、その全てがそこまで嫌だというのは、何か自分でも変だと思うので、それでついくだらない妄想などしてしまうのだ。

と、前置きはこのくらいにして。

その、梅干しが人生最大の敵であった私の体に、最近いくつかの梅干しが収まった。

好きか嫌いかと言われれば、まあ未だ嫌いな方だけれど、
嫌い嫌いも好きのうちとかいうことで、実は本当は梅干しを体が欲しているのではないか、
とそういう変なことをある日考えついたのだ。

それで、えいっと食べた。

なんか、効きそう。なんに効くのかは知らないが。

ともあれ、これで世界に敵無し。苦手というものは、克服してしまえば、意外とあれれという感じだったりもする。他にも苦手なものを見つけて、どんどん食ってしまおう。

☆ うめぼしをてんと乗せけり冬の朝