その紅

朝から激しい雨。ああ、夏休みの最後の日が雨なんてヤだなあ、と小学生のような溜息をつきながら目を覚ましたのだったけれど、ベランダに面した窓から外を透かして見て、とても、そう、とても、驚いた。

もしかして、もしかして。これは、やっぱり莟だったの?

それから、その莟は少しずつ開き、お昼頃にはすっかり花を咲かせたのである。
喇叭形の、紅色の、というよりも朝顔色の、朝顔
この赤は、朝顔以外にはない赤で、雨の街の中に開いたそれは、余りにも素敵だった。

夏休みの自由研究にはもう間にあわないよね、だって、まだ丈が10センチくらいで、蔓の一本も出てないし。なんて思っていたら、いきなりその10センチしかない草丈からいきなり莟が出て、8月31日というギリギリセーフな朝に咲いたのである。間にあった!

こんなに背の低い朝顔って、見たことない。この先、一つの茎からいくつも花が咲くような気配もない。まるでタンポポかなにかみたいに、花一つくっつけて咲いたのだ。

それでも、花は普通くらいの大きさがあって、10センチの丈には立派すぎるしバランスが変だ。

それでも、私はこの朝顔色の、夏のある朝にだけやってきて、心の内側の方に灯る赤い色の懐かしさと美しさにすっかり囚われて、雨のベランダに飛び出して、横や縦、斜めなどから目の中にその瑞々しい赤の隅々を取り入れた。花弁の付け根の方は白くて、そこからアコーディオンみたいに開いたところに彼女の赤が染まる。白いところがあるから、この不可思議な朝顔紅の艶やかで初々しい効果が生まれるのだなあ、などと、何度も眺める。この朝顔は、誰が何と言おうと、女性である。

ああ、そうか、そういえば、子供の頃に朝顔の図柄の浴衣を持っていたっけ。その浴衣の朝顔の色が、この紅だった。それもあって、こんなに懐かしいのだろう。

朝顔日記:75日目:咲いた!

☆ パレットに朝顔色を探しけり