最重要項目

午前6時45分に目覚ましが鳴る。昨夜は深夜ずいぶん過ぎまで起きていたから、ものすごく眠い。5時間も寝てない。それでも、なぜか今日は、横のものをなんとか縦にして、窓際まで辿り着く。そしてオン。何を? テレビを。

朝の静けさの中に、いきなり響くは喇叭の音。そう、ワールドカップの日本対カメルーン戦は、Vではこんな時間に起こっていたのだ。

朝からいきなりの喇叭音は、時空を歪める。何かとっても素敵な悪いことをしているような気分になる。寝不足でちょっと吐き気がしそうなくらいに眠いのだけれど、それでも人を虜にするワールドカップ。そう言えば、稽古も本番も、もう何につけてもとても厳しかったF犬街のJ親方も、ワールドカップで自国の試合がある日には、「今日は、稽古は4時まで! みんな試合を見るんだぞ、いいか!」とか、そういうノリで稽古が半分休みになったりした。

舞台と試合が重なった日は特に面白かった。丁度、試合の開始時間と舞台の終わる時間が同じくらいだった日、J親方曰く「今日は、芝居引っ張るなよ」。まあ、半分冗談でもあったのだろうけれど、いつもならば、ねちねちとどこまでもいつまでも、もう勘弁して下さいというくらいにやらせるこの人をして、さらっとね〜サクサクね〜、ね、ね、みたいなノリがワールドカップの試合日にはあったような気がする。アート至上主義者をして、ワールドカップはアートに優先するものなのだ。ワールドカップを見ずしてアートを語るなかれ、とか、もうそのくらい言ってしまってもいいって、そんな感じなのだ。

そう、それくらい、ヨーロッパ人にとってワールドカップというものは重要なのだ。最最重要項目、三重丸しかもペンは太めの赤でぐるぐるぐる、なのである。

そういう場所で人生のいくらかの時間を送ったせいか、はたまた、それもまたF犬街の親方の貴い教えだったということなのか、ワールドカップが起こっていて、しかも自分の国が試合しているのに応援しない、というわけには、どうしてもいかないのだ。というわけで、早朝観戦。わ、勝った。すごい。カンドー。

夕方、曇り空の中、写真教室なるものに出掛ける。
ずっと写真というのが、どういう仕組みで撮れるのか、知りたかったんだ。
久しぶりに授業みたいなのに出席して、なんだか内側がこちょこちょした。
これは、何か新しいことが始まる時の合図だ。
たぶん、心が外に開く時の感じ。
普段、ほとんど人間に会わないような生活をしているので、いろんな人と出会うだけで、もうやたらに楽しかった。

☆ 見返りし五月雨傘のピンクかな