タソカレ

夜10時、ようやく暗くなった街に散歩に出た。坂道を上って行くと、人も車もみなシルエットになり、家には明りがついていて、庭木も草もシルエットになっている。「誰ソ彼どき」というやつだ。

シルエットになって誰が誰だかよくわからない花や木の群れの中を通って行くと、甘いのや爽やかなのや、透明な緑なのや、どこまでも懐かしいのやら、いろいろな香りが絡まり付いて来た。それはやさしい音のようでもあり、心躍る色のようでもあり、誰かの手招きのしなり具合のようでもあった。

そんな時、私もまた誰だか分からないシルエットになって、そこに混じる。混じりながら、風の中の小さな渦巻きの一点となって、西から東へとゆらゆら進んで行く。この感じは気持ちいい。

☆ 短夜や誰ソ彼時の頬の線