十の位

ここ数日悩んでいた新作の題名がやっと決まった。世界は経済恐慌だとか、海底油田から油がどばどば流れ出ているだとか、日本では政権交代でどうなるのだろうかだとか、そういう重要課題がたくさんあるというのに、題名だのなんだのというような、こんなどうでもいいことに3日も頭脳を使ったりしていてよいのだろうか、とちょっと反省しつつも、いやきっと、このように一見世界には何も貢献していないかのように思える営みも、とても真剣にやっているのであれば、きっとどこかで何かにつながっているに違いない、と思い直す。

今回の作品の上演会場は、とっても面白いことをいろいろやっているアートセンターのようなところなのだけれど、観客はぎっちり詰めても50人も入れない。千とか万とか、何十万とかいう単位ではなくて、十の単位で推移するようなやたらこぢんまりとしたことをやるのだ。どうせそのような怪しい催しには人が集まらないからまあ何十人くらいにしておいた方が無難なのでしょ、とかいう意見もあるかもしれないけれど、じんわりと作品と出会って頂くためには、多くても百くらいが一度の観客の人数の上限かな、と思って自発的に人数を制限してもいるのだ。

バーチュアルなもの、遠隔なものが日常にこれだけ入って来ている時に、わざわざ電車を乗り継ぎ、車を動かし、手足をテコテコ動かして、実際のVのこの場所、この一点までやってきてくれる観客の方々には、やはりそれなりの濃厚な体験をして帰って頂きたいのだ。この世界の一点にある時間にわざわざ体をひきずって出掛けないと絶対に体験できない空気を提供したいのである。

なので、人数はやっぱり十の位になる。ちょっと寂しいかな、くらいの人数で、お互いの顔がきょろきょろ見合えるくらいの数がいい。観客が群衆や記号にならずに、その人の顔や体のまんまでいられて、「いやあ、こんなところに、オレ来ちゃったよ、ハア」なんてトホホな気持ちになりながら、でも、同じようにそこに引き寄せられて来た人となんとなくちらちら交感する、そんな空気感がいい。図式化すると、舞台 - 群衆 ではなくて、舞台 -人 -人 -人人 - 舞台 -人-人 ... 本当はこの図式の人とか舞台のところから四方八方にまた手足が伸びていて他の人や舞台と繋がっているような感じにしたいのだけれど、文字だとうまく描けないな。陽気なタコが十匹くらいお互いに手をつないで踊ってるような感じだ。結構複雑。

とまあ、ようやく題名決定。

近日公開!

☆ 蠅の来て動物となる我が身かな