朝を貰いました

別に誕生日だからといって特別なことをしなくてもいいのだけれど、やっぱり気になってしまうのは、お誕生日会をやったりやらなかったり呼ばれたり呼ばれなかったりした幼児体験の影響かしら、なんてえこともないのだけれど、やっぱり何かセレブレーションなことをしてみたい。よくここまで辿り着いたよなあ、さてこれからどこに行きませうか、という来し方行く末の赤いポチ丸通過点なのだもの、その歳でスペシャルバースデーでもないだろうに、とは言わせないよ。

ラッコのもさもさ提案:「デニーズに行って、お誕生日ブランチ(無料)にありつく」。そりゃラッコワールドではスペシャルかもしれぬよ、でも私は新しい年の初めの最初の最初に体に入るのがデニーズの油臭いパンケーキだなんてのはヤだよ。しかも、こちとらのデニーズは日本のデニーズなんかの、もしかしたらこれヘルシーかも、なんてのとは違う筋金入りの分量と油量。これが更に本場のお隣A国などに行くと、もう大変なことになる。ガバっとメニューを開けると、食べ物がこっちに襲いかかって来そうな。なんか、この朝のクリスタルなきもち〜と合わないと思うんだよね。

というのは、何故かしら今日は朝五時に起きたから。昨日だったかその辺に山積みになってた本をパラパラ眺めていたら、「朝5時起きがあなたを変える!」とかなんとか書いてあって、それをとりあえず鵜呑みにしてみたのだ。もともと低血圧系で朝が苦手なので、普通の心持ちでいると、平気で9時くらいまでぬくぬくのくの字型でベットの磁力に屈服。そんなわけで、朝というものが私の人生にはあまり(ほとんど)なかった。折角ここまでなんとか辿り着いて、この先まだもう少しは旅を続けそうなわけなので、このスペシャルデーを境として朝を作ってみることにしたのだ。今年の自分へのバースデープレゼントは「朝」。いや、結構キツいもの貰っちゃった〜(しかも自分から)。でもね、その生まれた一日目の朝は、ヨガマットの上で瞑想風やってると、遠く微かに鳥が規則的にピヤ・ ピヤ・ ピヤ・ 歌っているのが聞こえて、Vは日曜日かつ明日は国民の祝日でおやすみってんで、とっても静か。まだ汚されていない清潔な薄青の中に道路や建物が佇んでいるのが窓から少し見えて、世界は「さあ、どうぞ!」ってこっちを向いて胸を開いている。それから3時間。いつもならまだ夢の中に囚われている時間に、いつも一日かけてやってる仕事はほとんど終わってしまった。

心残りもなく発進。ってわけで、デニーズじゃないよ、この朝は。ブーブー、と鼻が鳴って行き先変更。まだ一度も行ったことのない、お洒落系ベルギー系カフェなんてのに入店。ワッフルの焼ける匂い。どこかレトロな店内。F犬街のことが思い出される。ここで、半熟卵・プロシュート・トマト・オリーブ・アボガドが枯山水みたいに白い四角いお皿の上に配置されてるシンプルな朝ご飯を食べた。これ、今日の、初めての朝の手触りを完璧に形にしてる。じーん。

それからラッコ車は遥々と走り、とあるお店の前に止まった。かなり大きいけど、でもなんとなくこぢんまりもしている園芸店。苗木もいっぱい置いてある。ここでラッコは植木鉢とハーブや野菜の苗を一杯買ってプレゼントしてくれた。結構一時間くらいウロウロと植物の中を彷徨ったのだけれど、ああ、この感じも今日の朝の手触りと同じだ。なんかいい匂いがあちこちでして、なんだろう、どこだろう、と探したら一本の幹がぴゅーっと細く伸びたところに頭でっかちに球体を乗せたような形の枝振り、そこにピンクから紫にかけての小さな花をいっぱいつけてるのが立っていて、あ、これだ、この木だ、一体なんの木だ、と、がやがや名札を裏返して見たらLilacとあった。わあ。なるほど。ラッコがくんくん鼻を鳴らして、目が少しだけ細まった。朝からしとしと降っていた雨が上がって、お日様が顔を出す。緑たちの色が、さっと輝いた。

家に戻って、早速土まみれになって植え替え。昨日までとても窮屈そうに植え替え鉢を待っていたトマトの苗から、「ひゃぁーっふ」とかいう、おぢさんらが温泉に浸かる時みたいな音が聞こえた。買って来た時のしょぼいプラスチック容器の中で拗ねていたハーブ族も、素敵な鉢に入れ替えてもらい「えっへん」という風貌。新しく今日やってきたのは、タイムとチャイブ、青ネギとパセリ、赤かぶとイチゴ。あとね、まだ撒いてないけど、朝顔の種もあるよ。

とてもミニチュアな農作業を終えて、ひとシャワーを浴びた後に、J系居酒屋に夕ご飯を食べに行ったのだけれど、何かを一つ植えて、何かを一つ食べる、というのが、とても正しい気がして、やたらに楽しかった。日本人のウエイトレスさんが、たぶんバースデーバースデーとか言ってるのを小耳に挟んだらしくて、最後に注文した酒チーズケーキとかいう美味しいやつの上に赤い蝋燭一本立てて持って来てくれた。

朝は、とてもいい。
そして、誕生日が終わる5分前には、気持ちよく疲れて、眠ってしまった。

☆ 植え替えて新世界なるトマトかな