缶カラひとつ花ひとつ

夕方、シネマテークに映画を観に行く。上映開始時間が4時半とかいう変な時間なのは、今日が国民の祝日だから。この映画はどうしても見たい映画だったので、雨が降っていないことをいいことに、ダウンタウンまで橋を渡って歩いて行く。

そう、この映画、絶対に見たかったんだ。

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劇場のパンフレットの解説によると、監督のキアロスタミ自身が自作の映画の中で一番好きな作品なのだそうだ。映画のことを語っている映画なのだけれど、有名な映画監督のフリをしたことから詐欺師として訴えられそうになる貧しい映画マニアの青年は、どうもその人本人らしいし、実際にあった話だと言うし、登場人物には劇中の名前がなくて、全てその人自身として登場しているし、キアロスタミ自身も出て来るし、映画監督になりきっている男性と、そのフリをされた方の本当の監督(モフセン・マフマルバフ)も出て来る。

どこまでがドキュメンタリーで、どこからがフィクションなのか、その境目がよくわからないし、何が真実で何が嘘なのかも、だんだんと分からなくなって来る。いや、すごい映画だ。で、何が見えて来たのかというと、紛れもない息もするし匂いもするし泣きも叫びもするかもしれない「人間」。その人間の内に隠れているヒダヒダの振動が静かに見えて来る。それにしても、どうやって撮ったんだろう、この映画。そこも含めて、映画史に残る一本。

社会的背景の中で出口なしの人間の煩悶が静かに浮かび上がる一方で、フとそこに花があったり、ゴミ溜めの缶カラがカラリンカラリンとずっとずっと坂を下って行ったりする。この缶カラのショットはぞくぞく、わくわくした。世界の隅っこのこういうところを見たり、聞いたりしている人なので、キアロスタミは大好きな監督なのだ。この缶カラ(缶カラ缶カラってなんのことだよ、って見た人じゃないと分からないけれど...ぜひ見て欲しい...)のかんじが、後の『ファイブ』の世界へと繋がって行くのかな。『ファイブ』も必見。

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あと、映画の中で何回も話に出て来る、マフマルバフ監督『サイクリスト』という映画、とっても気になる。

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☆ 塵溜の中や三本夏の花