闇鼠一号

世界が完全に光に包まれてしまった。それも、かなり強い白い光だ。ホームレスのおっさんが上半身裸でぬっと出て、どうやら夏が始動したらしい。
このように、世界の方が極端に、何の出し惜しみもなく、ボリューム全開で明るくなると、人間の方はやや戸惑う。もうそのまんまのウェーブに乗っかって、脱げるものは脱ぎ捨てて、ショーツやらタンクトップやらになり、早速買い込んでおいたフリップフロップのYYに足を滑り込ませて、光そのものとなり歩いて行くような人も世に多いのだが、ちょっと捻くれた人などは、そっちがそんなにあっけらかんと明るいなら、私がバランスを取って少し暗くしませう、なんていう具合で、ちょっといつもよりも暗い影的存在となって、ブラインドウの隙間から入って来る光に嘆息し、外に出れば限度なく降り注ぐ光を迷惑そうなしかめっ面で睨みながら、陰から影へ、そして蔭へと鼠方式で逃げ込むような人も出て来る。

私はどちらかというと、やはり捻くれた分類に入ることがあって、今日はその闇鼠と化し、どうも光と融合できなかった。

そんなわけで、夕ご飯を食べに出掛けた楽し気なレストランで、YYを履いた人などが酒だ馳走だと騒いでいるその光に浮かされたいつもより特別に活気のある声の集まりの中に入ったら、その声の角がガツンガツンと頭にぶつかり、耳の中で何重にもちくちくと反響して、闇と光が入り交じってもうどうしようもないような混乱が発生。あまりに居心地が悪いので、美味しいスウプにありつく前に、外に逃れ出た。

捻くれた人には、夏は少しずつやってくる。だって、ちょっと照れるのだ。どうして良いのか分かんなくなっちゃうのだ。この余りにあからさまな光。

☆ 光線を睨む少女や夏若し