鼻の居場所

今日も一日、風邪ひきさんをやっていた。なかなかしつこい風邪だ。濃厚な鼻水が後から後から噴出。喉の痛みはかなり収まったけれど、今度は鼻の擤みすぎか炎症か、息すると鼻の中が奥の方まで乾燥した痛みが走る。寝ると喉の入口あたりがイガイガする。そして思わず咳がコホコホと零れる。熱はないし、やや頭が重い以外は特に気分が悪くもないので、朝から鼻をブーブーやりながら、なんとか一日を過ごした。

海外に出て良かったことは? と聞かれたら、第一に「ものすごい音で鼻を擤んでも、誰も文句を言わないこと」と答える。世界のどの地域で「鼻ブーブー」が許され、どの地域で許されないのか調べてみたことはないけれど、少なくともF犬街でも、Vでも鼻は公然とブーブーやれる。ああ、なんという気持ちのよさ。家でもブーブー。街中でもブーブー。すっきりするぜー。

耳鼻咽喉科系の全ての領域の器官が我が一族の弱点で、子供の頃から鼻風邪、鼻水、鼻詰まりなどが激しかった。そのせいかどうか知らないけれど、日本国の中のNの、更にウチの家族の中では「鼻ブーブー」が解禁されていた。ただ、あんまりものすごい音でブーブーやってると「中耳炎になるよ!」とか「もうすこし静かに擤みなさい!」くらいの注意は受けた覚えがあるけれど、それでも巷の「スースー」とか「プププ」とか「クンクン」みたいな純和風の鼻の擤み方とは一線を画していた。

そのことに気づいたのは小学生の時。学校でも相変わらず「ブーブー、ブブーッ」などとものすごい大音量で鼻を擤んでいたら「ハナオンナ」とかいうあだ名をつけられた。私は恥ずかしさで真っ赤になり、それから学校ではできるだけ「ププッ」とか「ズーズー」とか「スルスル」くらいの感じで収めて乙女を装ったのであった。

ああ、それから長い長い年月、私の鼻は欲求不満を抱えて毎日を過ごしていたのだ。「ああ、思いっきり、この俺様=鼻が吹っ飛ぶくらいのキップの良さで、爽やかに擤んでくれないかなぁ」などと。F犬街に上陸して、かわいい女の子が人前で「ブーブー、ブブブー」などという野獣の雄叫びのような音で鼻を擤んでいる図を目撃した時には、期待で胸が(鼻が)踊った。いいのか?! ほんとに!? やっほー!!

そう、それから私は再び、ブブーッ、ブブブブーッと鼻をぶっ飛ばしながら、思いっきり鼻水を世界へと放出する日々、あの遠く懐かしい子供の日々の輝きを取り戻したのである。ああ、気持ちいい。ああ、幸せ。
かくして、長い間日本社会で抑圧されていた私の鼻は、ようやっと居場所を見つけたのであった。めでたしめでたし。