ワッフルの凹はシロップの池

朝はいつでも自家製のグラノーラを食べるのだけれど、底ついた。しかも、月曜日の宴会芸の準備をせねばならぬし、宴会芸とはいえ芸は芸、おろそかにすることはできないので、しばらく忙しくて作ってる暇がない。グラノーラは意外と簡単に作れるのだけれど、材料を計ったり混ぜたりするのがちょっと面倒。特にアーモンドをプードプロセッサーなる凶暴な機械で粉砕する時の音が強烈にうるさくて苦手だ。

こんな朝は、と近所のネオカフェにとことこ向って朝食を食べることにした。このJカフェの開店以来、既に何度も出現して「きゃあ、またでたー」と言われそうなくらいの怪しい常連になりつつあり、お店のオーナーご夫妻とも知り合いになっているのだけれど、朝食を食べに行くのは初めて。おー、既にお客さんが入ってるー。おー、チョークでメニューの書かれた新しいボードがあるー、などと朝の低血圧がぐっと上がる思いを抑えつつボードを眺めると、おー、充実の朝食メニュー目白押し。

いや、食べた食べたー。卵にソーセージ、ハッシュドブラウン、トースト、そしてワッフル。ワッフルと言えばF犬街での日々が思い出されるのだけれど、VのJカフェワッフルはF犬街のに負けず劣らず厚みがあって、サクサク。F犬街のは四角形が多かったのだけれど、こっちのは丸いのに十字に線が入っていて、分割すると4つの扇形になるタイプ。でも、どちらもあの電気技師の靴底のような立体凹にシロップが溜まる感じは同じ。さっきまで寝起きでぼんやりしていた胃袋が、なになになに? と目を覚まし、やたらニコニコしている。食べ過ぎたかなと思ったけれど、いい材料で丁寧に作ってあるからか、全然お腹にもたれなかった。後味良し。新製品ですー、と試供品で飲ませて頂いたホットキャラメルなるものも、美味であった。カフェにはクリスマスツリーが出て、お客さんの一人の小さな坊やが、ぱたぱたと駆け寄ってはしきりにツリーの飾りに見入っていた。光は空から窓を通過して、テーブルの上で小さく踊る。なんと幸福な朝であろう。

と、その足でラボに籠り、衣装作りに取りかかる。どうせ一夜限りの装束なので、適当に作ればよいのだけれど、変なディテイルについ拘ってしまい、気がつくと6時間くらいずっとミシンの前に座っていた。時間が完全に飛んで、お腹は素敵な朝食のおかげで夕方まで満足していたし、あんまり変なことに集中しすぎるのもどうかなと反省したりもするのだけれど、こんな風に時間があれっという間に飛ぶのは、こうして布切れの端っこを縫い合わせたり、糸の端を結んだり、赤いのの裏に紺色をつけたりしている時間がたぶん楽しいからなのだろう。自分のことなのに「だろう」なんて言うのは、変だけどね。頭で考えるとよく分からないのだけれど、どうもそうらしいということだ。嫌いなことをする時には、一分毎に時計を見て「はあ」と息が漏れるからね。

縫い合わせた布をひっくりかえして紐を作るのにやたら時間がかかった。鉗子とかそんな感じの専用の道具があるらしいのだけれど、そういえば、ウチのおばあちゃんは細い竹製の尺の物差しを器用に突っ込んでざざざっと紐をひっくりかえしてたっけな、などと思いだしながら、尺物差しがこのテーブルにあるわけもなく、待ち針と指の筋肉の根性でなんとかひっくりかえした。お裁縫で筋力アップできるとは思わなかった。今なら指相撲大会で優勝できるかもしれない。

でーきーたーっ。と叫んだ時には外はもう暮れかけて。針刺しの上に落ちるライトの光の輪が、茶の間のちょっと暗い蛍光灯の下で縫い物をしているおばあちゃんのシルエットと重なって、辺りはやたら静かで、赤い待ち針一本であそことここが繋がっていた。