ギョーザとの涙の再会

今日は朝から雨。そして、私の頭の中では朝から「ギョーザ、ギョーザ、ギョーザ」という言葉がぐるぐる巡っている。今宵はV滞在中の大和撫子M女史の家を訪問、オヤジ居酒屋系の宴を楽しもうという趣向なのである。そして、何か作って持って行こうと思った時に頭に浮かんだのがこの「ギョーザ」。ああ、ギョーザ以外にはもう何も考えられぬ。食べたい。

一体どこでどう習得したのかよく覚えていないんだけど、いつの頃からかギョーザが得意料理になった。大勢の人が集まるパーティーで、200個くらい作ったこともある。よしっ。今日は久々に。冷凍室にはオーガニック鶏ひき肉なる秘蔵物もあることだし。ギョーザいくぞっ。と、頭の中がギョーザで溢れ、もうどうにも止まらない状態だったんである。

今回の鶏ギョーザにはニラは入れない予定だったので、材料はほとんどウチにある。キャベツ、青ネギ、ショウガ、マッシュルーム。あ、しかし。肝心要のギョーザの皮がない。と、近所のスーパーマーケットに走る。ここはアジア系の調味料なんかもかなり揃った巨大店なので、たぶんギョーザの皮くらいあるんじゃないかな、と信じて走る。

しかし!

見当たらないんだな、これが。そこで店員さんに聞くとまず一人めが「ボク今日仕事始めたばかりなので、よく分からない」。そして、そのお兄ちゃんは他の店員を連れて来た。お、中国系女子。この人なら「ギョーザの皮」が何なのか、多分分かってくれるぞ。予感的中。彼女は「ああ、ギョーザの皮ね...」と言いながら、しかし、やっぱり頭を抱えている。「あったような気がするんだけどなァ...」そして、結局、更に勤務歴の長そうなラテン系おばさんにバトンタッチ。

うーむ、まず「ギョーザの皮」が何であるのか、伝えるのが難しかった。ギョーザはこちらでは pot sticker と呼ばれているので、その語彙も使ってみたのだけれど、一向に分かってもらえない。「こう、丸くて、平べったくて、このくらいの大きさで、小麦粉でできていて...」などと、もう連想ゲーム状態で何とか伝えようとすると、おばさんは「あ、分かった! こっちこっち」なんて店内のあちこちに連れて行ってそれらしきものを指差すのだが。違うって、それはパイ皮。それもちがーう。ライスペーパー。え、それはトルティーヤだろが。パイ皮を指差して、「これって、便利よ〜。いいんじゃないの、これで」って。そうだよね、いっそ、パイ皮で作っちゃおうか、餃子。一瞬、こっちもその気になっちゃったよ、うまいな、おばさん。でも、ちがうっての。オイオイ。

そこに先ほどの中国系女子登場。どうやら管理部に電話して、取り扱いの有無を確認したらしい。「こっちに、それらしいのがあるんだけど」この言葉を聞き最後の期待を胸に「現場」へと向う。しかし! 冷凍食品コーナーの冷凍庫に収まっていたのは○ではなく□。おお、これは! 残念、春巻きの皮でした。(ま、四角くてもいっか...)とまた一瞬弱気な考えが頭をよぎったが、気を取り直し「うーん、惜しいけど、コレじゃないのです」と言い切って、「あ、もしかしたらこっちにあるかもヨ...」などと更に私をスーパーマーケットの迷宮に誘い込もうとするおばさんを後に、次のスーパーに直行。そこにもギョーザの皮の姿形はなかった。

甘かった。Vのスーパーにそんなに簡単にギョーザの皮があると思った私が完全に甘かった。

しかし、頭の中に山積みにされた「ギョーザ」を今更別の料理に書き換えることは不可能。どうしよう、時間は迫るし。

と、ここでM女史との待ち合わせ場所が韓国系マーケットの前であることを思いだす。

結局、ギョーザの種だけをウチで作り、途中でギョーザの皮を調達、M女史の家でギョーザの最終形態にするという苦肉の策を思いついた。

韓国マーケットの冷凍庫に大量のギョーザの皮を発見した時は、「おお、ここにいたのか、ギョーザよ」と最果ての地で郷里の同朋に巡り会ったようなカンドーが走った。目に涙。口元に涎。

かくして、ギョーザは無事我々の胃袋に収まったのであった。めでたしめでたし。