走り続ければ、奇跡は起きる

今日も曇り。でも、雲の裏側から日射しがちょっとだけ透けて見えるような感じ。空は明るい。紅葉が鮮やか。紅葉という言葉は言い尽くしてない感じがする。だって、赤いだけじゃなくて、黄色や深い橙色も幾重にも混じっているから。

他人の夢の話ほど、聞いて面白くないものってないのだけれど、今朝変な夢を見た。変な夢、というよりは、なんだか楽しく嬉しい夢だった。

私はやたら歩くのが速い。そして、体はめちゃくちゃ固いが、スポーツの中で走るのだけが得意なのである。この逃げ足の速さに、これまで何度救われたことか...なんていう話はどうでもいいんだけど、この足の速さは、努力の賜物ではなくて、単なる遺伝。父は競歩選手。そしてその父の父もマラソン選手、兄弟もアスリートなどなど、やたら走る一家の血筋なのだ。

と、前置きはこのくらいにして、本日の夢。
父が徒競走に参加している。実はこれはオリンピックくらい凄いレースらしい。そこに父が参加。すごいじゃん。でも、なんか私はどっかで「どーせまたダメでしょー」と醒めて見ていた。

これは実話なのだが、父は若い頃、結構有望な選手だったらしく、オリンピックの国内選考会の予選会くらいまで行って、もしかしたら五輪選手も夢ではないかも...というくらいの実力があったらしいのだが(真実は知らないけど)、本番にやたら弱い男で、重要なレース前に精をつけようと生卵を飲み過ぎて食中り(最近、生卵の話が多いな)になり実力が発揮できずに終わる、などといったアクシデントが続き、結局世に名を残せなかった不運のアスリートであったらしい。

その父が、こんな凄いレースの決勝に残るなんて。すごいじゃん。でも、またどうせずっこけるんでしょ。

娘はどこまでも意地悪く、レースに臨む父を観客席から眺めていた。

ヨーイ、ドン!

ピストルが鳴る。選手達が土煙をたてて、走る、走る。

あっ。

スタートしてまだ数メートルも走ってないのに、父がコケた。

やっぱりね。あーあ。と私は溜息をつく。結局負けるのよね、いつも。

レースは続く。

父は起き上がり、また走り始める。でも、先頭を行くグループからはもうずっと離されて、勝つ可能性はほとんどない。

やっぱりね。あーあ。わかってたんだ。期待なんかしなきゃよかった。

レースは続く。父は走る。走る。追っかけて、追っかけて。

前の選手たちも、走る、走る。

サバンナを駆ける野獣の如く。足の筋肉が盛り上がり、息の音がこっちまで聞こえて来そうな形相。

第四コーナーを回る時、それは起こった。

前をゆく選手達が、ぶつかりあいながら、全員転倒。

ええっ。

その横を、父が駆け抜けて行く。最初と変わらない、淡々としたペースで。

そして、ゴールのテープを切った。

父優勝。

最後まで、諦めなかった彼が、勝った。

父が出て来る夢で、こんなに嬉しい夢は初めてだったような気がする。

走り続ければ、奇跡は起きる。父は(私は)初めての笑いを笑うように、夢の中で笑った。