血を採られました

朝方、雨。午後曇り。
朝、しとしとしとしとと霧雨の降る中、健康診断の採血にゆく。Vにおける医療システムはNにおける医療システムなどとは随分と違っていて、採血だとか、超音波検査だとか、そういう検査系のものは、お医者さんとは別の場所にある検査専門のラボに行かないとやってもらえない。ちょこっとその辺の開業医さんに行っても、看護婦さんがちょちょいっと採血なんかをやってくれるJ国のようなわけにはいかないのだ。

でもまあ、採血に行った場合、そこにいる技師さん達は、ほとんど採血専門の人たちなので、血を採り慣れているなんていう利点もある。上手いし痛くないし、素早いし。と、安心していたら、今日はちょっと顔がこわばった。

「1番ルームにどうぞ」と言われて待っていると、そこに現われたのはやたら若そうな中国系のお兄ちゃん。今までの人生の中で血を採られた時にはなぜかいつも女性だったので、男性であるということだけでちょっと驚いた。でもまあ、考えてみると採血技師が男性で何が悪い。と心を落ち着けていると、「あ、ボク学生です」だって。どうやら医学部学生のインターンか何からしい。学生だから下手ということもないだろうけど、やっぱり採血とかって経験がものを言うような気もするしなあ。どうせなら「学生です」なんて言わないで欲しかった。たぶん、学生だってことを患者に一応言う決まりかなんかがあるんだろうな。

すんごい緊張した。緊張すると、痛さも2倍。鼻息が荒くなった。たぶん学生さんも緊張してたんだろうねえ。「学生です」って言った瞬間に私の顔の笑顔が完全に固まっちゃってたし。たぶん、頬なんか紅潮してたな。こっちも、あっちも。彼は「平気そう」なポーカーフェイスを崩さなかったようだけれど、たぶん内心では「うまくいかんかったら、やべぇねか。おちつかんきゃ、おちつかんきゃ。」(なぜかN弁)などとドキドキしてたに違いない。あ、針が、血管に、刺さる。という瞬間に、私は「そうだ、この学生さんだって、こうやって練習を積んで、はじめて一人前の医者になれるのだもの、私は彼の成長のために、C国の医療向上のために、そして人類の発展、宇宙の平和のためにこの身をささげて貢献するのだわ、ええいっ、もう好きなようにして」などという大袈裟なことを考えて気を紛らわした。

そして、試験管一本分の血を採られた後に「いやぁ、採血するといつも血圧が下がってフラフラしちゃったりするんですけど、今日は大丈夫みたいです〜」などとおべんちゃらを言い、学生だからといってびびっているわけではない(びびってたけど)ということを必死で示し、学生さんがんばれと心で念じて帰って来た。

そうやって、みんな成長するのだもんね。私の血管の一本や二本、なんのその。あ、まだ針の跡が痛いぞ。