舌転地胃転地

本日もS市に潜伏。空は曇り。寒い。わざわざS市まで来てイチローの勇姿を観に行くわけでもなく、なにやってるんだということになりそうだけれど、また朝っぱらから図書館へ。と、まずはその前に腹ごしらい。S市で最近流行りつつあるドーナツやへ向う。日本でもA国から上陸したドーナツやに長蛇の列が出来ていたりするこの頃だが、ここS市のドーナツやTop Potは、街外れにできた小さなドーナツやがあまりにもウマいために2号店、3号店へと展開したという、手作り感覚たっぷりのローカルなお店。お気に入りのお店なので、どでかいチェーン化しないことを密かに祈っている。

ここはドーナツが美味しいだけではなく、お店のデザインが優れもの。ロゴも店内のデザインもシンプル&クールで好みなのだが、壁一面には古い本が並べられていて書斎風。ラップトップを広げる人多し。ここに来ると、ついついドーナツをつまみながら考え仕事でもしたくなる、脳転地にはもってこいのクリエイティブ空間なのである。本日選んだドーナツはオールドファッションにシナモンシュガーが振りかけてあるやつ。朝食にドーナツってのは、しかし、一気に血糖値が高まって脳にガツンとパンチが入る感じ。一気に目が覚めた。やや胃にもたれる。でもまあ、たまにはこんな朝もよい。

その後図書館で「おかーさーん、おかーさーん、おかーさああああん」などと泣き叫ぶ子供の声などを耳の後ろで聞き流しながらしばし仕事。やはり昨日に続き脳転地の効用が出ているのか、短時間ではあるがなかなかはかどる。脳もノってきているのであと2時間くらいそのまま仕事したかったんだけれど、1時過ぎに図書館を後にしてダウンタウンへ。実はこれから有名レストランでのランチが待っている。日本に比べて北米ではgift certificate=お店のギフト券をプレゼントとしてあげたり貰ったりすることが結構多い。本日のレストランのギフト券も、実は頂き物。そんなことでもなければ行くことのないようなレストランに足を運ぶきっかけになるので、こういうギフトもなかなか乙なものだ。このレストランは、S市のレストラン界を牛耳っている有名シェフの展開するお店の一つで、観光客でごった返すS市パブリックマーケットのすぐ近く。Etta'sというシーフードのお店。

ここで、前菜に生牡蠣を少し。WA産のとBC産のを食べ比べてみる。とっても繊細な味。小振りでちょっと物足りないくらいだけれど、全く臭みがなくて爽やかな海の味! あと15個くらいは平気で食べられるなあ...などとラッコ心が出て思うのだが、いやいや、私は人間。ナイフとフォークを取り直し、サラダのオレンジ色のトマトを口に運ぶ。トマトが赤くなくてオレンジ色であるところがちょっと素敵だ。オレンジ色のトマトは甘みが強く、野菜ではなくてフルーツの味がした。そしてメイン。やっぱりシーフードレストランなので、海が全部入ってるようなブイヤベース風シチューを食べる。濃い! F犬街にいた頃に時々食べた「フィッシュスープ」という海のありとあらゆる奥義が詰まったようなドロドロこってりなスープの味が記憶の彼方から浮かんで来た。

さてさて。今回はもう一軒、S市の素敵なお店を発見した。Molly Moon'sというアイスクリームやさん。犬がアイスクリームを舐めてるロゴがなかなか強烈。ちょっとTop Potのアイスクリーム版みたいな、シンプル&クールな店構え。しかし、お店のインテリアがイカしてるだけではない。前の人が舐め始めているアイスクリームの色艶溶け具合などからかなりの本格派であることを直感。胸が高鳴る。いろいろと珍しいアイスクリームがメニューにあって、中でも塩キャラメル、バルサミコ苺なんてのにかなり心惹かれるが、結局、ラベンダーハニーを注文。シングルスクープなのに舐めても舐めても終わりが来ない程の分量がワッフルコーンに惜しみなく盛られ、それを夏とは思えぬ寒さの夜の街角でぺろぺろ舐めれば、身はいつのまにか南仏のラベンダー畑を飛び回るハチになり、なぜかしらず、そのうちラベンダーの蜜で一杯になった自分自身の手足をペロペロなめているような錯覚に襲われ、何かヤバいものでも入っているのやら、舐めても舐めても飽きるどころか、更にどんどん美味しくなり、目も心も恍惚としてやたらに幸せな気分が沸き上がって来た。まあ、アイスクリーム体験というのは、概ねそういうものだけれど、このお店の味はその極限あたりをゆく。この寒さの中、行列ができてるワケも分かるなあ。

かくして、脳転地であるはずのS市訪問はまた舌転地胃転地でもあったという、そういうお話。