歓迎・先祖ご一行様

日本はお盆の季節。とはいえV市にいては墓参もならず、心のみを菩提寺に飛ばす。このシーズン、目をつぶると、祖母が朝からいそいそと仏壇の掃除をして回り灯籠を組み立てたり、家宝? の観音様の掛け軸をかけたりして、お盆の準備をしている姿がぽおおっと浮かんで来る。毎朝毎晩、仏壇にお参りする祖母の横で仏壇のCM風に一緒に手を合わせながら大きくなったので、「お盆はご先祖様が家に帰って来る」なんていう話も、へえー、そうなのか、とぜんぜん抵抗なく受け入れてたのだが、でもやっぱり、亡くなった人がウチに帰って来るということは、オバケとしてやってくるのかなぁ、それだとちょっとコワいなあ、なんてドキドキしたり緊張したりしたもんだった。

この「家に帰って来る」というコンセプト、信じる信じないは人それぞれなんだけど、ウチの祖母はずっとずっと先に逝ってしまった祖父(祖父はまだおじいちゃんなどという年齢ではない頃にあっちの世界に行ってしまったので、私は会った事が一度もない)が一年に一度帰って来る日だというので、お盆はなんだかいつもソワソワと嬉しそうだった。痩せて小さくなった祖母が、この日になるとなんだかいつもよりも可憐に見えて、恋人を待つ少女に変身してちよっと上気して、なんだか少しくすぐったかった。祖母にとっては、お盆ってのは一種の七夕だったのかもしれないな。この世とあの世の間に橋がかかって、懐かしくていとおしいダンナ様に会えるの。お盆にはいつもよりお洒落してたような気がするもの。おばあちゃん。

それにしても、あの世からご先祖様のご一行がやってきて、ウチに数日間滞在するというコンセプトは面白いな。もちろんこの来客達は目には見えないので、心の中で「ここにいらっしゃっている!」と思って過ごすというだけなのだけれど。このごろは、だんだんあっちの世界の住人の数が増えて来て。そうなると益々、あちらの住人たちとリアル!な酒盛りのできるお盆はなんだか待ち遠しいし、子供の頃に思ったようにはコワくもなんともなくて、「ひさしぶりー」と抱きつきたくなるような気分でもあり(とはいえ、目に見えない来客陣なので、なかなか抱きつきにくいのだが)、祖母がお盆になるとなんだかひときわ楽しそうだった理由が身にしみて分かって来た。

さて、しかし、今年はV市にいて、あの世の来客陣たちが今滞在しているはずのN市の家にはいない。この場合、どうなるんだろうか。やっぱりあの世からの来客も一カ所にしか滞在できないんだろうか、それとも。こっちに5%あっちに95%くらいの感じでV市にもチラっと来てくれたりもするんだろうか。何しろ、数日前からS市に遊山に行き、昨夜遅くにV市に戻り、今朝になってボーっと「あ、今日日本お盆。」とようやく思い出したくらいのイタダケない心がけのV市在住子孫なので、「あっちは居心地が悪そうだからN市に行くべ」ってな感じで、ほぼ100%N市にいらっしゃるのではないかと思われるが。こういう時に、時差ってのがどうなるのかなあーと、変な事を真剣に考える。V市は明日がお盆の中日なわけなので、N市からV市に皆さんぴゅーっと飛来して、ちょっとこっちでも遊んで帰ってくれないかな、などと。明日はお花とお供物、蝋燭を供えてお待ちしてみようっと。

あちらとこちら。あちらなんてないという人もいるけれど、ある方がなんだか楽しいので、私はあるものとして日々を送っている。そして自分がいつかあっちの住人になった時には、こっちへのお盆ツアーを存分に楽しもうと画策している。