職業病

今日も夜遊び。演劇フェスティバルに出掛ける。今夜の演目は『City of Dreams』。イギリスのPeter Rederという人の発案による舞台。発案の、というのは、舞台に登場するパフォーマーはV在住の人々で、Vで採集したオブジェを使って、Vの街を舞台の上に作り上げるという、そういうご当地物のパフォーマンス作品なのだ。サウンドスケープもVで録音されたり集められたりした音が使われている。いろんな都市でご当地バージョンを上演してるらしい。

面白そうなアイディアだなぁ、Vで採取したオブジェならば、ホームレスのおじさんから分けてもらった汚れたビール瓶だとか、ちょっとひしゃげたコーヒーの紙コップだとか、カナダギースの落とし物だとか、長雨でぐしゃぐしゃになったスニーカーの片っぽだとか、犬たちが残して行ったふわふわの毛の塊だとか、そんなリアルVが浮かび上がるんだろうか、と楽しみにして出掛けたのだ。しかし。

舞台に浮かび上がったのは、歴史の教科書か、観光パンフレットに出て来そうな、やたらに透明感のあるVであって、ちょっと拍子抜けした。何にもない空間に、パフォーマー(といっても、オブジェを取りに行って、並べるだけの作業をする人々なのだが)が黙々とオブジェを並べていく感じは、とても好きだったんだけどな。最初は木の枝みたいなのを黙々と並べていて、それがだんだんとVの地図らしき形になって、人の痕跡・集落らしきものが出て来たあたりで、一つ、また一つと小さなキャンドルが灯されていく。その後、そのキャンドルが消されて、鉄道みたいな線が通ったり、今のダウンタウンの辺りにまず小さな四角いオブジェが置かれ、それがだんだん大きく、背の高いブロックに置き換えられたりした。

最初は面白かったのだけれど、地図の形がはっきりしてくると、空港のある場所に飛行機の形のオモチャが置かれたりして、そういうあまりにも「そのまんま」な解釈が続いて、だんだんがっかりした。あ、あそこあたりが空港だ! と観客はもう全員分かっているのだから、せめて空気を入れる機内首枕とか、機内食のトレイとか、銀色の金属の塊とか、スッチーのスカーフとか、もうちょっと捻りが欲しかったんだよな。

たくさん、たくさん、とてもたくさんのキャンドルが並んだラストは、奇麗だった。

それでも、私の中には「そのまんまなんだよな〜」とか叫んでる宇宙人が既に無数に増殖して、感動を阻んでいた。どうやら、私は「そのまんま」なもの、言い換えれば「説明的なもの」もしくは「次が予想できてしまうもの」に出会うと、変てこな宇宙人が内側に増殖して感動を阻止する体質らしいのだ。そういうものは、どこか「十分に想像的でない」、ような気がしてしまうから。

昔からこんなに気難しかったかなあ。とっても幸せそうに奇麗なキャンドルをみつめている観客に囲まれて、自分が邪悪な人間であるように思えてきた。
これって、職業病かもしれない。

☆ 春待つや家なき人の髪長し