我輩は虫である

冬の盛り。今日も雨。時々ちらりと鳥の横顔や栗鼠の後ろ姿なんかを見るけれど、特に虫達にはとんとお目にかからない今日このごろ。そんなことを言いながら立っているこの濡れた地面の下には、たくさんの、無数の、星の数よりももっと多いかもしれない数の虫たちが、眠ったりちょこっと蠢いたりしているに違いない。

虫は人間よりも偉いんじゃないかと、時々思う。ヤツらは人間が地上に登場したずっと前からここにいて、そしてほぼ間違いなく、人間が消えた後にもずっといることだろう。あの、マッチ棒の先くらいの頭なんかがクルクルと動いているのを見ると、二つの考えが浮かぶ。一つは、私ら人間より頭が小さいのだから、大したことは考えてないんだろうっていう考え。もう一つは、あんなに小さいのだから超ハイテクなんだろうっていう考え。昔のコンピューターはでかい建物の中にさえ収まらないくらい大きくて遅かったけど、今のコンピューターはどんどん小さくなって、マイクロ、ナノの世界へと接近。小さくなっても、機能は劣るどころかどんどん良くなっている。虫の頭脳もそうだとすれば、たぶん人間の100倍、1000倍、一千億倍くらい機能がいいのかも。

と、雨の日には変なことばっかり頭に浮かぶ。

R市にあるモールのフードコートでこういう変な空想に耽っていたら、人間の一人一人が虫に見えて来た。私も虫の一匹である。我輩は、7ドルを払ったハイナンチキンライスとやらをガツガツと喰らっている。向うには、子連れの虫も数匹。二匹の子虫は自動車の形をした乗り物などに乗ってワアワア、ニコニコやっている。50円くらい入れると2分くらい動く類の乗り物なのだけど、動いてなくても楽しそうに乗っかっている。母虫、父虫も満足気だ。独りぼっちの虫もあちこちにいて、一杯の肉麺等を啜っている。我輩の虫文明は、お金なるものを発明したので、自分で餌を取りにいかなくてもよくなったのだ。服なんてのも発明した。どうだい、お洒落だろう、このスニーカー。このモールには、新しい服に群がる虫達がわんさか。100円ショップもあるぞ。なかなかやるだろ。でもその代わり、お金稼がなきゃいかないしね。本能なんてのも随分と忘れちゃったので、何のためにこの地上に生まれでたんだろうなんて、フと分からなくなったりもするのさ。ま、そんなことを考えるのも人間虫文明ならでは。えっへん。

と、その時、人間虫文明をずっとずっと遠くから見ている何者かが呟いた。
「こいつら、ちっちぇーな」

☆ 成人の日一匹の虫生る