泣く女

Sの朝は、寒いけれど、雪は降っていなかった。
ホテルの目の前には、レム・クールハース設計の図書館があって、
これを眺めているだけで、楽しい。
夜見ると、未来の廃墟みたいであり、
朝見ると、夜のうちに突然着陸した宇宙船みたいにピカピカしている。

そこからトコトコ歩いて、S市美術館へ。
ピカソ展を観る。
ピカソ自身の所蔵作品を集めた展覧会で、パリからやってきた。
なんでも、日本ではイチローの活躍で有名になったS市も、ヨーロッパでの知名度はかなり低いらしく、パリの学芸員が「S?その街、どこにあるの?」と言ったとか。
うさ国でもNYとかLAとかならピカソ展が普通に企画されそうだが、Sでこの企画を通すのは、大変だったそうだ。とにかく、Sにおける初ピカソなのである。

ピカソというと、あの、顔も体もバラバラになってるキュビズムの形の強烈さの方をパっと思い出すが、実物を見ると、色彩にも引き寄せられた。線の勢い、色の感情。ジャクソン・ポロックを生で見た時に、音楽にとても似ているなあと感じたのだが、ピカソもちょっとそんなところがある。感情は、泣いている女の形から出ているようでいて、実はその片隅の少し翳った色の重なりからも出ているのである。

☆ 群衆の中「泣く女」見つめたり