たくさん歩いた

Vの北の方にある、日本人の経営のオーガニックマーケットに立ち寄る。野菜の顔つきが、その辺のスーパーなんかにあるのとはずいぶん違っている。どこかでこの顔見た覚えがあるよな、と、よく考えてみたら、その昔、祖母が庭の半分くらいをほっくり返して作っていた家庭菜園の野菜の顔に似てた。太陽に向ってニコニコしている感じ。野菜が野菜の匂いを放っている。

オーガニック農場の混成鶏部隊の作であるという卵は、それぞれ色が違う。いろんな鶏を混ぜて放し飼いにしておくと、病気になったりしにくいんだって。白いのは白い鶏、茶色っぽいのは茶色の鶏、青いのは黒い鶏から生まれる卵なんだそうだ。その、一つ一つ違う色、ちょっと大きさも違ったりするところを見ただけで、顔がつい三日月型に笑っちゃう。

早速、仕入れて来たニコニコトマトやらニコニコキュウリやらを食した夕食の後、ちょっと散歩に行こうというつもりが、ものすごく長い散歩になってしまった。天気の良い宵で、空気が透明で寒からず暑からずなのだから、ついついまた一歩、それまた一歩と歩を進めて、Vのダウンタウンの隅っこの海沿いまで行って帰って来た。途中で、とてもスカートの短い、踵の高い女の子たちが夜の街に繰り出すところの横を通ったり、観光客がウワウワとVの目抜き通り辺りを彷徨っていたり、日本人三人(女1+男2)がそのへんのバス停で地図を片手にちょっとボっとしてるのを目撃して、そこにあるかもしれないドラマを勝手に想像したり、前をちょこちょこ行く犬のお尻の揺れを見たり、3時間くらい歩いていたと思うよ。万歩計の電池はまだ切れていて、たくさん歩いた、としか言えないけれど。

☆ 短夜や急げヒールの足四本