絡む女

今日は、一日仕事をした挙句に、どこかに夕ご飯を食べに行ってみようという企画。こういうご褒美があると、なんとなくやる気が出たりするでしょ。という子供騙し的プランにまんまと騙される性なので、お昼を食べる間も惜しんで作業に熱中してしまう。いや、まんまといい具合に騙された。

夕方になって、よし天気はピカピカに良いことだし、歩いて行こう、と、お目当ての洋食屋風居酒屋とやらにテクテクと歩いて行ったのだけれど、かれこれ40分は歩いたところでやっと到着したら、お店は閉まっているし、なんだか中は工事中みたいな様子で、もしかしたら永久に閉店したのかもしれない。

仕方ないので、ラッコと一緒に踵を返してダウンタウンへ。また30分くらい歩いて、それから電車に乗った。

もうこの辺りでお腹が空き過ぎていたので、駅からちょっと歩いた所の、近場の居酒屋に入る。近場に居酒屋があるところがVの底力。ただし、いつもそうなのだけれど、行こうと思っていた場所が閉まっていて、二番手で選ばれたお店というのは、ちょっと分が悪い。ちょっと高いような、ちょっと少ないような、ちょっといまいちのような、そんな気がどうしてもしてしまうのだ。F犬街にいた時に、全く同じ料理が出たら、泣きながら喜んで食べただろうに。Vにはそれなりの選択肢があるので、ラッコなども随分とすれっからしになっているのだ。

そんなわけで、満腹ではあるようなのだがちょっとした不満を残したままで、お店を出て、それから海辺まで歩いてみることにした。さすがに少し寒くなっていたけれど、海辺にはまだたくさん人が出ていて、特にラブ、ラブな人たちが暗い辺りにたくさんいた。恋愛相談に乗っているフリをしながら、青年を口説こうとしているらしい女の子の、酔っぱらいつつ、彼に蛸みたいに絡まり付いて言葉も動作も文字通り「絡んでいる」様子や声があまりにも興味深く、青年が「昔の彼女は日本人で...うんぬん...日本に行って英語教師をしようと思ったんだけど...うんぬん」なんていうくだりもあって耳が離せなくなり、思わずその二人の横にしばらく座って話に聞き入ってしまった。盗み聞きとはヤな散歩人だ。夏の宵には私のようなヤな散歩人もふらふらとたくさん出ていると思われるので、絡む人絡まれる人などは注意した方がよかろう。あら、それともこんなヤな散歩人は私だけかしら。

さて。それから、暗闇の向こう側から突然現われる犬を「あ」とか「かわいー」とか言いながら眺めながら、また長い長い散歩をして帰って来た。たぶん、今日は15キロは歩いただろう。ひょっとしたら20キロくらい歩いたのかも。

そして、こういう日に限って、鞄の中に入れた万歩計の電池が切れていた。

☆ 酔いし娘の絡まっている夏の夜