タンポポの咲く耳

桜はすっかり散ってしまい、どこも葉桜。曇り空の下を歩いていたら、この前はきらきら満開の花を咲かせていたタンポポが早くも花をきゅっと閉じて、種となる準備に入ったのにでくわす。子供時代には、タンポポは花よりもむしろ、この種への移行期のヤツと、種がほわほわなヤツが大好きだった。移行期のやつは、花びらが閉じて枯れて、三角帽子のようになってるところを、つまんでひっぱって、帽子を脱がせる。そうすると、種の綿毛になるところがまだ少し湿り気を持って眠っているところが見れるのだ。考えてみると、ちょっと残酷なようでもあるけれど、昔は種への移行をお手伝いしているつもりで片っ端から帽子部分をポンポンと引き抜いて回った。何といっても、早くあの、綿毛のついた種のもわもわが見たかったしね。たんぽぽは種が一番好き。フっと息を吹きかけて飛ばして、またお手伝いしてるつもりになる。あの綿毛が耳に入ると耳が聞こえなくなるというのがおばあちゃんの説で、種が耳に入ったら大変だ、と逃げ回ったりもした。種が耳に入ったら、耳の中にたんぽぽの芽が出ると、本当に信じていたしね。今でも結構昔と同じくらい、信じていたりもするのだけれど。

夜、DVDでアラン・レネの『夜と霧』を観る。ホロコーストを扱ったドキュメンタリーなのだが、言葉が出なくなるくらい揺り動かされる映画。人間というのは、一体なんなのだろう、という根源的な問いさえ浮かんで来る。

夜と霧 [DVD]

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☆ 萎みたる蒲公英 飛翔待ちながら