旅立って行く人

午後、もうすぐVから旅立って行く人と一杯のお茶を飲みました。
お茶はプールの味がして、底に何か溜まっていました。
このカフェは昔「ジ・エンド」とかいう名前だったと言うので、見渡すと確かに終わりらしいものが四隅にうずくまっていました。
Vはやって来る人と、旅立って行く人がたくさんいる街なのです。
Vにやってきて、Vにほんの少し羽根を休めて、そしてVから旅立って行く。その繰り返しなのです。
旅立ちは、ちょっと悲しくて寂しくてツンとして、終わりの匂いがします。
でも、旅立ちは本当は始まりでもあるらしいのです。
だから、感傷的にはならずに、またね、と別れます。
旅はいつまでも続いて、でも、どの旅にも必ず終わりが来る、というのは不思議なことですね。ねえ。
ちょっと離れた所から見ると、もうみんな、そう、みんながみんな、旅をしているのが見えました。空の高さです。
そして、そのどの旅もいつまでも続いて、でも、どの旅にも必ず終わりが来るというので、もっと不思議だなと思いました。
そして、みんながみんな、ちょっと寂しくて悲しくてツンとして、でも、やっぱり、またね、という位のところで収めておく。
終わった所からいつでも何かが始まるのならば、涙はどうにも昔の海の味がして不釣り合いであるらしいので。
茶店のドアを開けると、世界がまだそこにありました。
空には雨が充満していて、とってもそれが最初の風景のようには見えなかったのですけれど、
終わりよりも始まりの方に体を傾斜させて、後ろを振返らずにバスに飛び乗りました。
99という、やっぱり終わりみたいな番号のついたバスは、どうやら未来の方へ進んで行ったようです。
曇りガラス4枚。