サンタクロースはいるよ、君

朝からものすごい霧が立ちこめていて、街がなんにも見えなかった。お昼くらいになって、少し街が見えて、それから青空が一瞬見えたのだけれど、またどこからか霧がやってきて街を覆ってしまった。

静かな土曜日。と言いたいところなんだけど、クリスマスの翌日はこちらではBoxing Dayという一年に一度の大セールの日。ものすごくデカい紙袋を三つくらい持った人々があちこちを歩いている。ふらりとカナダ・ラインに乗ったら、周りにいる人全員がブランド名付きの巨大紙袋を持っている(恐らく狩りの帰りの獲物)ので、完全に圧倒された。ボクシング・デーであることさえ忘れていた私の目には、どうしても肩に掛けた紙袋が棒に逆さに吊るした鹿に見えてしまって。だめだ、また人混みの中で宇宙人になってしまった。

後ろに座っていた中国系少年二人の会話。

「じゃ、ぐぐん、サンタクロース、ぐぐん、いると思ってるわけ?」
「え?...うん、ぼくは...いると思う」
「サンタクロースなんて、ぐぐん、馬鹿だな、ぐぐん、いないよ。僕は、ぐぐん、いろんな角度から検討、ぐぐん、した結果、いないって、わかった」
「じゃ、なんでクリスマスイブに、君も待ってたんだよ、プレゼント...」
(ぐぐん、というのは、少年のチック症らしき咳払いの音)
まだ角度がかくろ、検討がへんとう、くらいにしか発音できない小さな子供なのに、どうして君はそんなに現実的なんだ。
私は振り向いて「サンタクロースはいるよ」と言いたい気持ちで一杯になった。

昨日、インド系クリスマスディナーの後にDVDで観た映画。

ジャームッシュの映画の中で、実はコレが一番好きかもしれない。何度観ても、新しい発見アリ。最初に観た時には、アメリカにまだ一度も行った事がなかったから、映画の中の風景は何かとても抽象的なものに見えて、でも、雪の中を黒いコートを来た3人が彷徨うイメージが脳にくっきりと刻まれた。今観ると、ものすごーーーーくアメリカ的な映画で、思わず笑っちゃう。アメリカが何なのか、この映画を観るとよくわかる。なんて言ってしまってもいんじゃないだろうか。アメリカに何度か行ってみて、アメリカって変だな、何だろう何だろうと思っていたのが、この映画を久々に観て「あ、そういうことなんだな」と輪郭がはっきりした。

それにしても、人間の生み出すものすごく気まずい間、感情なんて持つ隙間がないみたいに振る舞う登場人物、何にも結局起こらないけれど、いろんなことがたくさん起こるプロット。絶望と希望。アメリカの痛さと美しさをぎりぎりまで余分を排除して捕まえた映像。人間と世界とアメリカが紙芝居みたいにバラバラになった映像の中に詰まっている。人間って、世界って、アメリカって何だったっけ、と分からなくなったら、またこの映画に戻ることとしよう。