人体関ヶ原

本日も晴れ。とても寒い一日。ベランダの植物連はほとんど寒さにやられつつあるのだけれど、唯一、サラダ・ミックスだけは健在。さすがにそれも霜が降りちゃったらダウンしそうなので、軒先の方に寄せておいた。植物と一緒に暮らすのって、意外と難しい。毎日のように野菜を食べていても、ときどき花を買って来て眺めたりしていても、私は彼らのことをちっとも知らない。生まれてしばらく経って、柔らかく煮た野菜(何だったのかな、覚えてない)を初めてスプーンで食べさせてもらった時から今日の晩ご飯まで、毎日お世話になってきたというのに、さ。

ああ忙しい、ああ時間がない、かけ算の宿題がある、漢字の書き取りがある、ピアノのお稽古がある、部活動で素振り50本しなきゃいけない、アイツのことが気になる、おばあちゃんが病気だ、お盆が来る、大晦日が来る、回覧板を隣りに回す、などと人間の時間表にはやたらいろいろなイベントが詰め込まれているので、野菜のことや花のことを知る時間なんてそれ程残っていないみたいだ。でも野菜(サラダ野郎達)が今朝こそこそっと教えてくれたことによると、野菜や花の話をほー、へーと聞いてあげたり、彼らの秘密にある日興味を持つと、人間の持ち時間は減るどころか何倍にも増えて、結局はものすごく時間に余裕ができたりするんだってさ。不思議だね。

植物は土とつながっているから人間よりも明確だと思う。人間は根無し草であちこちプラプラしてばっかりいるから、文字通り地に足がついていない。地球の上に住んでいながら地球のことなんてちっとも知らずに平気でいられるのは人間くらいだろうな。渡り鳥も、魚も、小松菜の葉も知っていることを人間は知らない。知識としては知ってるかもしれないけど、そんなの知ってるうちに入らない。直観とか本能とか、匂いとか湿度とか、気圧の変化とか、空気中の見えない花粉の流れとか、肌の敏感度とか、目を開けても閉じてもはっきりとは見る事のできない場所にある真実とか、そういうものを理屈を超えて鷲掴みにする力をOFFにしたままで人間はプラプラプラプラやっている。能力がもともとないわけじゃないので、つまみをちょいとONにすれば済むのだけれど、そのつまみがどこにあったのかももう覚えていないらしいんだ。つまみはどこ? 目を閉じて、またその中の目を閉じて、その裏側の目も閉じて、そこで開いて来る目を凝らしてつまみを探そうとするのだけれど、進化しすぎたからなのか、進化しそこなったからなのか、なかなか見つからない。私はもしかしてつまみレスな生物なのだろうか。でも探し続けてみる、もうちょっと。

午前中にファミリードクターのDr.Lに、新型インフルエンザの予防接種をしてもらう。Dr.Lは中国系カナダ人で笑顔が際立つ味わいキャラ。病院ドラマのキャラクターを作るなんていう仕事がもし来たら(来ない?)主人公の同僚のドクターの役にDr.Lキャラを必ず登場させるだろうな。クラシックな白衣姿に必ずネクタイを締めていて、ズボンはおじさんスラックス。そして靴下が黒ではなくてなぜか肌色。ちょっとずれさがっている感じ。でも腕は抜群で主人公が困惑している時にちゃちゃっと一言ヒントを与えて、主人公が「はっ」となるところを、またやたらニコニコ去って行く男、とかそんなノリで。

さて、そんなDr.Lなのだが、ついでに普通のインフルエンザの接種もしときましょうということになり、目にも止まらぬ速さで左腕に新型、右腕に普通型のインフルエンザのワクチンを注射されてしまった。所要時間は左右合わせて8秒くらいか? ギネス級。予防接種なんて久しぶりなので、小さな注射針を腕に直角に突き立てられた時には、痛さというよりはノスタルジックなカンドーで「おお」と声を出してしまった。ワクチンが腕にジュワっと入った瞬間、いやあな鈍痛。筋肉の中にものすごい目つきをしたウイルスの大群が広がっていく図が見えた。右腕の普通インフルの方は、針がチクっとしただけで、それ以外の痛みなし。やっぱり新型はスゴイなあ、やっぱり痛いんだ、などと変に感心しながら帰って来た。

さて、接種から12時間が過ぎた現在の体調はいかに。右腕は肩より上に挙げるとちょっと痛いような気もするけど、ほとんど異常なし。そして左腕。ぽっこりと腫れていて、ちょっと挙げようとすると痛むぜ。すげー。やっぱり新型インフルってこんなに邪悪なんだー。こんなにぱつんぱつんに腫れてるー、などと、まるで人体実験。いや、不謹慎な。こんなところで感心している場合じゃないよな。新型インフル恐るべし。かなり手強い。今のところ風邪の症状は出てないけれど、気のせいか普段より疲労を感じるような。体がウイルスと闘っているのだろうか。体が関ヶ原状態なのだろうか。ああ、目に浮かぶ目に浮かぶ。右から左から押し寄せるウイルスの大群。がんばれ、カラダ。ホットミルク(蜂蜜入り)でも飲んで寝ようっと。