ネズミが出たって平気だぞ。

今日も雨降らず。快晴ではないけれど、空が少し晴れている。でも今日は外出しないで家に一日籠って、また本などを読んでいた。気のせいかもしれないんだけれども、風邪がまだ完全に治っていないのか、喉少し痛し。それから、ちょっと頭痛。先日の発熱が何だったのかは未だ不明なのだけれど、世の中の空中や手すり袖口などに現在いろんな菌が溢れていることだけは間違いない。電車に乗っても、レストランに行っても、タップダンスでタンタンやってる最中ですら、お隣や向いや後ろから「ゴボッ、ゴボ、ゲボ、ボゲ」なんていう音が聞こえて来る。

咳をする時には手を口に当てずに、腕をガバっと口元に直角に持って来て、袖と肘との間辺りで菌を受け止めよ、というのがC国の方針なので、あちこちでこの腕直角咳き込みの図が展開されている。その前に、咳き込み中の人はなるべく外出しないで欲しいなあとか、マスクでもして欲しいなあなどと日本人である私は思うのだけれど、マスク掛けてる人なんて街中を隅々までぐるり眺めて見ても、たぶん一人もいない。いないのだよ。そう言えば、ホームドクターの先生もマスクなんてしてなかったし。看護婦さんもしてないな。いいのだろうか、あんなに無防備で。

水道が濁るハナシじゃないけれど、日本だったら大騒ぎになりそうなことが、こちらC国ではほとんど騒ぎにならない。F犬街はどうだったかというと、やっぱり何があっても皆あんまり騒いでなかった。シャワーが壊れて冷水しか出ないとか、二階のシャワーを使うと三階のトイレが流れないとか、家にネズミが出て、天井裏を駆け回るとか。一つ目と三つ目は実際に体験した実話なのだけれど、そのことを大家さんに言ってもシャワーが直るまで3週間くらいかかったし、夏でもサーモスタットがなぜか作動して熱気が出て来る壊れたヒーターは、結局いつまで経っても直してもらえなかった。今思うと、言い方が半端だったのかしら。もっともの凄い形相、目は三角、眉毛の角度60度くらいで訴えないとダメだったのかしら。

でも、ネズミの件もシャワーが壊れた話も、私だけじゃなくて、F犬街じゃみんな体験してることだったし、「まあ、そのうち直るよ」とか「ふーん、しばらくは、じゃ、コールドシャワーだね」だとか、なんというか、暢気なのだ。ネズミの件なんて「あ、ぼくんちなんか、寝てる時にベッドに上に数匹落っこちて来て、運動会状態」などと、上には上がいて。私もその暢気さにだんだんと浸食されて、そのうちいろいろな不都合がどうでもいいように思えて来て、まあ、屋根があって雨が凌げて、水周りが時々正常に機能して、とりあえず寝ている時にネズミに鼻先を齧られなければオッケーだな、と思えるようになったもんだ。VなんてF犬街に比べたら、ものすごい未来都市風。文句言ってる場合じゃない。

その点、FからVを経て、いろいろと逞しくなったとも言えるのだけれど、それでもまだまだ弱々しいものです。でも、時々東京辺りに上陸すると、そのつもりもないのだけれど身の回り15センチくらいにザラザラめらめらとしたサバイバルオーラが知らず知らずのうちに立ち上ったままでドサドサと歩いているので、文明を爽やかに身に纏い、文明を唇と睫毛の突端にふわりと乗せた美女たちは通りすがりにこちらを振返り「あら、今のワイルドなものは...何?」と怪しさに思わず眉間に皺。などということがいつも起こってしまう。ネズミだって平気だぞ! 冷水シャワーでも平気。菌も腕付近でキャッチ(あ、そうだ、腕カバーがいいかも)、人生なんとかなるさ、明日はこの調子だと雨かもピピピ、などと、いろんな意味で暢気かつ野性であるところがちょっと誇らしい気分でもあるのだけれど、やっぱり文明の繊細な花びらの中に包まれ、いつひねっても奇麗な水が滔々と流れ出る蛇口からグラスをキラキラ満たして、ふわりとしたものを額の上辺りにそっと乗せて歩いてみたいしなあ。バランス、バランス。