裏のハナシ

光の裏には必ず影あり、というのは世の常だけど、V市オリンピックでもその辺りのことがイロイロと取り沙汰されている。何でも、V市はかなりの$を既にオリンピックにつぎ込み、しかもその$が当初の予定を大幅に上回っていることから、Vオリンピックはかなりの赤字になる、と今から予想されている。オリンピックで一儲け、というわけにはどうやらいかないらしく、ほんの一瞬の祭りが過ぎ去った後には、赤字だけが冬の街にどどんと残るらしいのだ。

空港とダウンタウンをつなぐカナダラインのようなインフラは今後もプラスに機能するだろうけれど、現在のように4分おきに運転なんてのが、オリンピックの後までずっと続くのかどうかは謎である。カナダラインで働いてる人たちは、なんというかやたらにルックスのいい人が多い。まさか...とは思うけれど、これはオリンピック用の人員配置なんじゃないかなと、つい意地悪な見方をしてしまう。

オリンピック村も、完成したとかしないとかいろいろと噂されておりますが、現地に行ってみると、まだ100%完成しているのではなさそう。この施設も当初の予定よりもものすごくお金がかかりすぎちゃったんだそうだ。「オリンピック村」という響きから、子供の頃から今に至るまで、その実態はなんとなくテント村のような簡易宿泊施設のようなものなのかなと想像していたのだが、全くの的外れ。V市の最後の水辺と呼ばれている一等地に豪華コンドミニウムが立ち並び、建物の周辺には趣向を凝らした公園が作られ、オリンピック村に設置されているゴミ箱は、見たこともないようなハイテクゴミ箱。なんでも、ソーラーエナジーを使ってゴミを自動圧縮するすごいヤツなんだそうである。がんばってるのである、張り切っているのである、いいとこ見せたいのである。

と、このようにオリンピックというのは世界に向けて見栄を張りまくっているようなイベントなので、当然その見栄につぎ込まれた分の$の皺寄せがどこかに出現する。なんと! その皺寄せの一つがアートであった! オリンピック関連以外の文化芸術関係の助成金が先頃大幅にカットされ、助成金を頼りに細々とやってきた小さなギャラリーなどは存続の危機に晒され、フィルムフェスティバルなどの大規模かつ老舗の催しの助成金も削減されて運営が難しくなっているとか。友人の話によるといきなり80%も予算を減らされた団体もあるのだそうだ。ついこの間、この「文化芸術切り捨て」のやり方に反対するアート関係者の決起集会などが行われたりしていた。そうでなくとも脆弱かつ凡庸なV市のアート事情。ここで$の流れが途絶えると、完全に息絶えてしまいそう。「オリンピック」と関連しておれば、どーでもえーような場当たり"アート"にいくらでも$がバラまかれているというお祭り騒ぎの中で、これまでコツコツとやってきた人が馬鹿を見ているという、そういう影がここにあった。

そして。昨日ニュースをぼんやり見ていたら、V市がダウンタウンのホームレスをシェルターに収容することを決めた、とかなんとかいう話をやっていた。ホームレスの野外死などが多く、これから冬に向けて寒くなるので...みたいな人道的なことを理由にしていたけど、そんなことは今はじまったわけではない。で、なんで急に「ホームレスさんら、こっちの温かいところで寝れば?」と門戸開放するのかというと、これまたオリンピックのため、Vという街の見栄を張るためなんである。ホームレスにそこらにころんと転がられていては、「世界一美しく住みやすい街V」のイメージに傷がつくのだ。要するに、ホームレスを囲い込んで、外から見えないようにするのが目的の政策なのであって、ホームレスのおっさん方の健康と社会福祉を考えて...なんていうのは仮面にすぎないのだから、ちょっと悲しい。

というわけで、光と影。たぶんV市オリンピックに際しては、整然と美しい町並み、誰もが幸せそうに微笑む自然の恵みの中のすばらしい街の姿が世界中に放映されるのだろう。その時、私はでもちょっと拗ねてホームレスのおっさんのことを考える。おっさんもまたこの街の住人。恥ずかしいもの隠すものではないはずでしょーに、と。