囚われのはっちゃん

曇天。家の中はちょっと蒸し暑い。外は下水道工事で朝からガーガーやっている。窓を開ければうるさいし、閉めれば暑いし、今日は宅配便を待っているので外に逃げることもできないし。仕方ないので小さな窓を一つ、半開きにしておいた。この窓はL字形のノブを90度回して、外に向って押すと蝶番のところから半開きにほんの20度くらいの角度で開く、安ビジネスホテルなんかにありそうなタイプの窓。(磨りガラスじゃないけど)

この窓がついてるところは一応「サンルーム」になっていて、とはいえこのサンルームは畳一畳くらいの大きさしかないので、これでルームと呼ぶのはやっぱり無理がある。このスペースが何のためにあるのか謎なのだが、結局、部屋からはみ出たものをちょっと置いたりするくらいで、ほとんど利用されていない。でも、「ルーム」ともしかして呼べるかも...、というのは、窓の反対側にもガラスの入ったドア(こういうのをフレンチドアとか言うのか?)がついていて、それを閉めるとリビングから丸見えではあるけれど、一応「部屋」スペースが完結する。

さて。気づいたら、このステキなサンルームに蜂が一匹迷い込んでいる。すかさずステキなフレンチドアを閉めて、蜂をサンルームに閉じ込めた。刺されるとやだし、って。ビジネスホテル窓は半開きのままなので、きっと蜂はそこから外へ出て行ってくれるだろうと思ったんだよね。

それから既に小一時間。ヤツはまだサンルームの中に囚われている。その行動パターンが面白いので、ついつい観察してしまった。ビジネスホテル窓(略してBHW)の位置は床と天井の中間より少し高い辺り。ウチのコンドは割と天井が高いので、BHWの更に上に嵌め殺しの窓ガラス(枠付き)が入っている。イメージとしては、モンドリアンの絵のラインを全部白にして、色部分をガラスにしたような構造になっている。

蜂のはっちゃん(勝手に命名)は、さっきから、BHWよりも上の嵌め殺しガラスの枠内に囚われて、そこを下から上へ、下から上へ、なめるようにバタバタ移動しながら出口を探している。上までいくと、下に落っこちる。でも、枠の外までは落っこちないので、結局また出口のない同じところを下から上へ、下から上へとバタバタやっている。で、これを永遠に繰り返すのかな、と思っていたら、落下の3度に一度くらい、「ちぇっ、ここダメか」という感じで落下したところからブーンと飛んで、最初のガラスから90度の角度のところにある、別の嵌め殺しモンドリアン枠へと移動して、そこでまた下から上、下から上、下から上、と何度か繰り返す。で、また何度かの落下の時に「ちぇっ」(というよりも「あわわっ」という感じでもあるが)ということでブーンと飛び、最初の嵌め殺しモンドリアンへと戻る。再び上下運動...(以下反復)。このようにウチのサンルームは恐るべき3D嵌め殺しモンドリアンガラスによって構成されている、蜂にとっては恐るべき迷宮。そこに迷い込んだはっちゃん、危機一髪。それにしても嵌め殺しって怖い言葉だよな。囚われのはっちゃんは、正に今その「嵌め」の地獄でもがいているのであり、その先には「殺し」の闇が待っている。きゃぁーう。

それにしても、はっちゃん。どうして開いてる窓んとこに行かないのかな。同じ動きを何回も何回も繰り返してるだけで。よしっ、ああっ、惜しいっ、ああっ、ああぁ、あーんっ、あーあ。あぁ...。

なんか、ずーっと見てるうちに泣けて来た。がんばれはっちゃん!

はっちゃんは、たぶん、同じ運動を無限回数繰り返し、ブーンと飛んだ時に「偶然に」開いた窓のとこを通過するまで、出口を見つけられないんだろうなあ。きっとその瞬間は、同じ運動の繰り返しで疲れた頃にやってくるのかもしれないなあ。それとも、はっちゃんは不運にも窓を見つけられずに、嵌め殺されてしまうのであろうか...(闇)。

なんかこれって、自分が一つの想念に囚われていて、出口がどうしても見つからない時の反復運動に似てるような気がして、ぞっとした。窓は開いてるのに、見えないんだよね。飛ぶのをやめて、止まってフと考えれば(はっちゃんが考えるのかは知らないが)、あ、こっちの方から風が吹いて来るぞ、なんていういろんなヒントが周りに溢れてるのにさ。どうしていつもがむしゃらに飛び続けちゃうかなあ。悲しい性よ。盲目よ...。...なんてことを、はっちゃんに教えられた午後。

はっちゃんどーしてるかなー、と今覗いたら、まだ囚われてました。あーん、はっちゃーん。
風読めはっちゃん! 窓の外の広い世界がキミを待っている。