乗って来た

乗って来た。といっても、仕事が波に乗って来たとか、そういう話ではない。本日V市に新しく「カナダ・ライン」という名前の公共の交通機関がオープンしたのである。V国際空港からV市ダウンタウンまでを約25分で結ぶ優れもの。来年の冬期オリンピックに向けて鳴り物入りで建設されたこの電車なのだが、オープンの今日は一日タダでどこまでも乗って行けるというので、別に用事もないんだけど、空港までぶらり乗って行き、折り返しダウンタウンの終点まで乗って、新ラインを制覇してきた。

別にオープンの日に乗らなくってもよかったんだけど、何しろウチから1分くらいのところにカナダ・ラインの駅ができちゃったので、一応確認しないと気が済まなくて。思えば今日までの4年間くらい、毎日そこら中を掘っくり返して工事してたのだもんなあ。4年と言えば、一昔の半分くらいの時間だ。その間、一体自分が何をしてたのかって思い出そうとすると頭が痛くなるけど、4年もコツコツと頑張って今日に至ったコイツの晴れ舞台が何となく人事とは思えず、遂に日の目を見たカナダ・ラインに「やあ!」と声掛けたくて、夕方散歩がてら出掛けたのだった。

この電車、ダウンタウンからかなり長い間地下に潜るので「地下鉄」と呼びたいんだけど、空港の近くに行くと地上に出て、高架の上を走るので地下鉄じゃない。運転席もないみたいだし、運転してる人がいないところを見ると、自動運転なのか? 今日は午後1時から夜9時まで、開業記念の無料運転が行われてたらしいんだけど、午後7時くらいに乗ってもまだものすごい混雑。V市でこんな人混みを見たのは初めてかも。一瞬、東京の地下鉄に乗ってるような錯覚が来て目眩。家族連れ多し。中国系、インド系、ヨーロッパ系、ちらほら日本人。ありとあらゆる人種の人たちがワンサカ乗っている。

車輛はヒュンダイが作った韓国製。吊り革がないので、つかまるとこがちょっと少ない。でも、ピカピカに新しい。乗ってる人はたぶん全員、用事がないけどとりあえず物珍しいので乗ってる人たち。C国にも鉄男鉄子っているのかしら、などとちょっと思いつつ。でも、これはもっと別の何かだな。なんか皆、顔がぽおおっと上気してる。これは未来の光を見た時の眩しそうな顔だ! やたらみんな幸せそうじゃないか。希望? 誇り? 好奇心? このワクワクした雰囲気は、祭りだな、これは。これで浴衣の男女でも乗ってたら、これから隅田川花火大会に行く人々と間違えそうな空気感が車輛を満たしているもの。

電車が地下から地上に出るところで「わあっ」っと歓声が上がった。何度も見た風景が、ちょっと別の角度から見ると全然違って見える。
ユーロが街にやってきた時にF犬街にいた時も一つの街の変化の時を感じてちょっとカンドーしたけれど、今日もちょっとカンドーした。
わーいV市に新しい電車がやってきた。ぴかぴかの未来がやってきた。