永遠の座布団一枚

朝からまた獣。しかし、獣との闘いもいよいよ終わりに近づいている。朝2時間程格闘して、完成。単なる獣毛だったものが、ほとんど命のありそうな生物の形になった。ホっと一息。このところの獣との取っ組み合いで毛だらけになった作業台および床のソージに取りかかる。掃除機で吸えども吸えども絡み付く獣毛。当然のことながら、掃除機の中からは巨大な獣毛の塊が出て来た。

おっと、そうしている間にも、時計はもう11時半を回っている。巷でのお盆行事が全てそうであるのか、はたまたこれは我が家のみの伝統であるのか知らないのだが、ウチのお盆では16日の正午にご先祖様ご一行がお帰りになるということになっていて、その際には灯明・お線香などを上げ、新しいお茶を差し上げて別れを惜しむことになっているのである。V市ではお茶の一つも出なかった...などとあの世で愚痴をこぼされるようなことがあってはならぬ...と、獣毛を振り払って走って帰宅。(こういう時に、作業場が家の隣りにあるのは助かる!)急いで湯を沸かす。

番茶かしら、緑茶かしら、やっぱり緑茶よね。と、緑茶を入れてお供えして、手を合わせた後、私も一緒にお茶を飲んだ。昔から8月16日の正午って、なんだか悲しかった。もう帰っちゃうの〜って。お盆のお供え物のナスの牛とキュウリの馬の気持ちがよく分かる。来る時は馬に乗って一刻も早く来て欲しい&帰る時は牛に乗ってゆっくり帰って欲しいって。ご先祖様グループと一緒に飲むお茶は、なんだかとても美味しかった。じーん。

午後ソージ。書き物仕事。秘蔵の黒豚ソーセージ入りチャーハンで夕食。お。今日は日曜日。日本のテレビチャンネル(こちらにも1チャンネルだけある。無料ではなく月額いくらで購入する特別チャンネル...)で『笑点』をやってる。小学生の頃、丁度『笑点』をやってる時間と英語教室に行く時間が重なっていて、とっても悲しかったのを思い出す。土曜日の午後だったかな。英語教室は街の真ん中にあって、そこまでバスに乗って行かなきゃいけなかった。私はまだ身長が1メートルくらいの小さいヒヨコだったのだが、クリスマスプレゼントにもらった黄色いディズニーの腕時計をして(ミッキーマウスが良かったのに、なぜかサンタさんは茶色いクマのをくれた)、英語教室の青いカバンを下げて(この手提げカバンの形や色、手触りまでなんとなくまだ覚えてる)、ものすごく真剣な顔で一人でバスに乗って行ったんだった。その英語教室で覚えたのはABCの歌くらい。あと、やたら毎回やったビンゴゲーム。この2つしか覚えてない。今思うと、あの頃思う存分『笑点』見といた方が、のちのち良かったかもしれない。一人で大冒険気分でバスに乗りこんで、「ええっと、降りるボタンはどこで押すんだっけ...」などと緊張してるヒヨコの姿も懐かしいが、その頃に座布団の上に乗ってたキクちゃんが、今でもそのまま座布団の上に乗って「オノオノガタ...」とかいつものバカをやってるという、この時間錯誤感覚もものすごい。あの頃は祖母も一緒に見てたんだよなあ。『笑点』見たさに仮病を使って英語教室を休んだことも二度三度...。あの懐かしい時は遥か彼方へ、しかしキクちゃんは今も目の前に...。しかも今テレビジョンが置かれているのはV市コンドの中。V市であの「チャンチャラ、スチャラカ、ン、チャンチャン」という『笑点』のテーマソングが流れる度に、私はほとんど泣きそうになりつつ大笑いする。思えば遠くに来たもんだ。山田くん、座布団一枚。
私の中で『笑点』はほとんど時空を超えている。パラレルユニバースに座布団一枚。永遠の光の中に、座布団一枚。

V市イギリス海岸まで散歩。今日は晴れて、夕焼けも美しい。途中、アザラシの頭がぬっと出てるのに遭遇。カワイイやつだ。
犬にも会えるし、アザラシにも会えるしV市の散歩は見所満点。と、頭はキョロキョロした後で、ぬるっと水に潜って消えた。