獣と格闘中

寒い。涼しいを通り越して、いきなりもう晩秋の気配。たぶん熱気はまた戻って来るのだが、8月上旬でこの寒さはさすがに季節感が完全に狂う。今日は空も冷たく曇っているので、やや油断しつつ鼻の頭にだけ日焼け止めを塗って出動。ダウンタウンにてE伝授。その後、V市の郊外リッチモンドへ向う。お目当ては布地屋さん。今週中にやらなければならない縫い物仕事あり。なんだか内職っぽいけど一応これもアート作業の一つ。

縫っている生地がいわゆる毛足の長い「獣系」なので、縫い目のところが厚ぼったくなってしまって、表面の方からの手触りがよろしくない。どーすればいいんですかーこういう時にはーと若い店員さんに聞くと、いろいろな優れ技を教えてくれた。専門店で買い物をする時、こういう専門知識のある店員さんの的確なアドバイスに出会うのが大好き。さすがっ、とカンドーする。肉屋さんだって、魚屋さんだって同じこと。自分が扱っている商品のことをよく知っている店員さんが好き。逆に、何を聞いても曖昧な答えしか返してくれない店員は店員としてホントは失格だよなと思う。愛がないというか...。肉屋でも電気やでも、なんでも良かったんだけど、たまたま時給も良かったのでここで働いてるだけですという感じの店員に出くわすことも時々あって、そういう時にはとってもがっかりする。「このワイルドソッカイサーモンってのとこっちのサーモンと、どう違うの」と聞くと「こっちはワイルドソッカイサーモンで、こっちはそうじゃないヤツです」なんて繰り返すだけの店員というのも結構いる。それは私にも分かってるってのー。

詰め物用の綿、マジックテープ数種、ミシン糸数種を購入してウチに帰る。布地も見たかったのだけれど、今日はおあずけ。

夜はずっと、ラボに籠り、獣毛を縫う作業。結構これが細かい作業なので根気がいるけれど、なかなか楽しくて、すぐに3時間くらい経ってしまった。しかし、全身毛だらけ。作業台の上は毛だらけ。床は毛だらけ。いやはや獣を扱う作業はなかなかどうして大変なのである(この獣は、フェイクファーですのでご安心を。念のため)。ここまで獣の毛が散乱するとなんというか、かなり凄惨な雰囲気が漂う。「やっちまったのか」という雰囲気が出てしまう。なんとなく、こっちの気分もマタギ系になってくるから変。オランダにいる友人のアーティストで、よく本物の獣を作品に使う女の子がいるのだが、なんでも、どっかから獣の死体を譲り受けて、自分で掃除するんだそうだ。彼女はちょっとやそっとのことでは驚かないタイプの女性なのだが、その掃除作業に関してはやや声を潜めて「...いや、それはすさまじいものよ...」と呟いていた。匂いとか、すごいらしい。ちなみに彼女は、最近自分のお腹に鴨かなんかの卵を装着する装置を発明して、それを使って卵を温めて孵化するというアートをやっていた。生まれたヒナの名前はオクタビオだったかな...。「うまれました!」みたいなメールが来た時には、「あれっ、彼女妊娠してたんだっけ...」と一瞬思ったのだけれど、写真を見たら鴨のヒヨコだった。現在も鴨と一緒に楽しい毎日を送っているらしい。いろんなアートがあるなあ。そうそう。彼女は自分の毛でパンツを編んだりしてたこともあった。真性獣系アーティストである。私はフェイク獣のみ扱う。本物のオーラの魅力ではなくて、フェイクなヤツらにイノチを吹き込むのを楽しんでいるから。

夜も更けて、本日の作業を終えて外に出ると、ものすごく寒かった。
この体感温度は日本の10月下旬くらいか。
猛暑の時には「早く涼しくなって〜」と思っていたのに、こんなにすんなり涼しく&寒くなられると拍子抜け。今度はもう一度暑さが帰って来るといいなあなどと願っているのだから、人間は勝手なものだな。それにしても、寒いっ。