宇宙につながっているカフェ

今日も晴れ。先週は空間移動をあまりせずに、結局ウチ付近でぐだぐだしている時間が多かったので、猛反省。本日は朝っぱらから出動。
まずはラボで2時間ほど作業の後、いきつけのカフェに。空間移動計画を開始してから、既に10回くらい行っているので、バリスタのねーちゃんにも面が割れている。このバリスタのねーちゃんは素晴しい。愛想が良い上に腕がよい。噂によると、ねーちゃんはアーティストらしい。ショートカットの髪の毛が溌剌系。バリスタはかくあって欲しいという、みんなの憧れのバリスタ像のイラストに命を吹き込んだような、過不足ないお洒落カジュアルファッションが素敵。

このカフェに行くと、普段は使っていない部分の脳細胞が刺激される。チャに含まれるカフェインのせいなのか。鼻を刺激する香ばしい挽きたてコーヒーの香りがそうするのだろうか。それとも、音楽? それとも白を貴重としたお洒落だけどヤッピー過ぎないインテリアのせいか。それとも、カフェの向い側にある公園を駆け回る犬のせい? それとも。

このカフェのいいところは、いつ行っても適当に人がいて、込み過ぎてもいないし、空きすぎてもいない。一人でコンピューター仕事をしてる人もいれば、赤ん坊を乗せたストローラーを押してやって来て、自分はコーヒー、赤ちゃんにはお水なんかを飲ませているお母さんもいる。あっちでは、クリエイティブ系とおぼしき数名が、何やらブレーンストーミングミーティングをやっている。そして私は片隅のテーブルに小さなノートを広げて、チャを啜りながら何やら自動筆記の如く、シャープペンシルをもう1時間もせわしなく踊らせている。

V市の他の場所にあるカフェでも機会ある毎に同じような行動を取ってみたのだが、このカフェほどに脳細胞の裏側を刺激されることはなかった。音楽が五月蝿すぎたり、照明が暗すぎたり、よくありがちなチェーン系カフェの内装にげんなりしたり、バリスタさんの対応がイマイチだったり、チャが不味かったり、といろんなファクターの一つくらいは必ず満たされず、そうするとカフェの隅っこに座ってノートを広げていても、なんというか、あんまり居心地が良くない。カフェが単にお茶を飲む場所、現実的な友達とおだべりする場所以上の、何かもっと想像的な、脳細胞がスキップしはじめるような、宇宙的で透明な空間になったりは普通はしないんだな。

思うに、この行きつけのカフェ=脳細胞解放カフェをそういう特別な場所にしているのは、やっぱりバリスタのねーちゃんじゃないかと思う。あのねーちゃんは、たぶんコーヒーの中にラブを注ぎ込んでいるのだと思う。自分のやるべき仕事を、プロフェッショナリズムだけではなくて、心の領域でこなしていける貴重な人材なのだ。ねーちゃんだって「あと2時間。時給9ドルは辛いわ!」とか(ねーちゃんの実際の時給は知らないが)溜息をつきながらコーヒーを挽く瞬間もあるかもしれないけれど、ねーちゃんはたぶん、彼女の仕事を愛している。楽しんでいる。ねーちゃんの姿は、どでかいエスプレッソマシンの影に隠れてよく見えないけれど、ねーちゃんのハートがコーヒーの香りと一緒にぽわぽわぽわんと流れ出て、それはカフェと同じ大きさにまで膨らんで、そこでチャを啜るあの人もこの人もすっぽりと包み込んでいる。

カフェで脳に十分宇宙遊泳させた後、V図書館へ空間移動。前に座った語学学生はクッキーを食べた後にバナナも食べていた。飲食禁止だよ...と教えてあげたかったが、ぎこちない身体の動かし方やよれたTシャツや、身体をボリボリ掻いてる感じや、匂い(視覚から立ち上る匂い。実際にクンクン嗅いだわけじゃないよ)が、人間が「がくせいさん」である時間の代表選手みたいで、なんだか笑ってしまった。いたなあ、ああいう男子学生。私のまわりにも。

帰り道の橋の上で、バリスタのねーちゃんとすれ違った。ねーちゃんは、サングラスを掛けて颯爽と歩きながら、こっちに小さく手を振った。
私も小さく振りかえした。
朝会って、また夕方に会う。しかも別の場所で。ねーちゃんは宇宙人かもしれない。