V図書館読み切り計画:012『ママ、ひとりでするのを手伝ってね!』

ちょっと前から何故か幼児教育に興味があって、シュタイナーだとかモンテッソーリだとか、一度本格的に読んでみたいなあと思っていた。何でだろうと考えると、近所の子供の勉強を見てあげる機会があったり、子供じゃないけどまだ大人でもない大学生を教えたり、どうしたらクリエイティブにモノを作れるかなんていうワークショップをやってみたりなんていう体験をこれまでにさせてもらったことが大きかったんじゃないかと思う。系統立ったメソッドなどは勉強していなかったので、それまで自分が生きて来た経験から学んだ事と、F犬街にいた頃に受講したいろんなワークショップ、あちこちで出会ったインストラクターの皆さんの智慧などを拝借しながら、自分でなんとかごちゃごちゃと考え、試し、失敗し、たまに成功したり、とにかく暗中模索っていう感じでやってきた。どうやったら、人間はクリエイティブになれるのか。その人の能力を最大限に引き出せるのか。グループでの共同作業を通して面白いものを作って行くには、どんな道筋を通ったらいいのか。

そんなことをいろいろ考えていったら、まず人の成長の基本のところにある幼児教育まで辿り着いたってわけだ。

こう言うと、なんだか立派そうに聞こえるけど。まあ、実は自分の中にいる、完全に大人になりきれていない部分を解明してみたいという気持ちもちょっとあるんだな。作品を作ると、いつも子供の遊びみたいなのができちゃうし。象の檻の前で、つい蟻を見るような行動取っちゃうし。でも、私の作品は本物の子供の心には届くんだろうか。なにこれ、つまんなーい。という一言で終わられちゃうんだろうか。

というわけで、モンテッソーリの幼児教育の成り立ちを説明しているこの本がV図書館の書棚にチラりと見えた時、私の胸は高鳴ったのである。とっても地味な本である。でもかなり読み込まれている風情。きっとこの本を手に取る人は、教育関係者か子供のいるお母さんなんじゃないかな。

モンテッソーリの幼児教育 ママ,ひとりでするのを手伝ってね!

モンテッソーリの幼児教育 ママ,ひとりでするのを手伝ってね!

(所蔵日:1998年3月2日)

80年代に出た本なので、今風の派手さはないし、活字も昔風でちょっと読みにくい。でも、書いてある内容はとても素晴しい! まさに「目からウロコ」。ちなみに、マリア・モンテッソーリは20世紀の最初の方に、イタリアで活動していた幼児教育者。お医者さんでもあり、その理論は非常に科学的でもある。とにかく彼女は子供をものすごーく細かくじっくり観察した人。それで、子供がある時期ものすごく感受性が敏感になって、すごいエネルギーが体の中から溢れて来るってことに気づいた。自然の摂理というか、子供の中には成長しようとする力がもともとあって、子供は遊んだり体を動かしたりすることを通して、自然から課された課題をこなしていくんだってさ。

モンテッソーリ教育で特に気に入ったのは次のプロセス。

☆自分で遊びたい遊具を選ぶ(自分の自由意志で、選択する)
☆自分で選んだものを続け、主体的にかかわる
☆そのことにものすごく集中する
☆自分からやめる。やめた後に、前よりもよい方向に変わる

まず、自分で何をするか「選ぶ」ってとこがすごいな。これができてない人って、意外と大人にも多い。私だって、本当に自分で選択でしてるの〜ってよく分かんなくなる瞬間がよくあるし。

それから、とにかく子供がやりたいだけやらせるってとこが、更にすごい。大人の考えで「そろそろ別なことすればいいのに....」とか「そんなことやってないでこっちをやりなさい」とか、「やめなさい!」とかいうことになりがちだと思うのだが。でも、子供はそこで、その時にやらなきゃいけない成長のタスクをものすごく一生懸命やってるんだってさ。大人に比べてスピードが遅かったりしても、子供の時間感覚を尊重してとことんやらせてあげるんだって。

そして、「自分からやめる」。これも、すごく深いな。5時になったら止めるのが「キマリ」だから止めるとか、そういうのじゃない。「もういい加減にしなさいっ!」と怒られて止めるのでもない。自分で、やるべき仕事を十分やって満足が得られたから止める。これってすごいなあ。なかなかできることじゃない。大人のワークショップでインプロやったりする時に、「十分にやったと思ったところで、自分で終わりを決めるように」と言うと困った顔をする人が多いもの。自発的にやる(自分で選んで、やって、やり終わる)って、意外とやってるようでやってないことなんだよなあ。

「子供は秩序が好きです!」っていうモンテッソーリの言葉にも驚いたな。なんとなく子供って「カオス」っていうイメージがあって、放っておくとオモチャも部屋もぐちゃぐちゃになっちゃうのかなと思っていたけど、子供は本当は秩序のあるものが大好きなんだそうだ。確かに、砂の中から小さい石ころを全部取り出して集めたり、野菜を種類ごとに分けたり、ちっちゃいのから大きいのに順番に並べたり、そういうのを子供はよくやってるよね。

私も、遠い昔を思い出してみると、そういう風に世界を分類して、秩序に従って並べるのが好きだった。でも、育った環境がなんとなくごちゃごちゃとしていたので、いつのまにかカオスの方に取り込まれてしまったようだ。時間の秩序とか、御飯を食べる時には必ずお茶碗を持つ、とかそういう秩序の方はきちんとしている家だったんだけど。我が家の教育方針はそれほど悪くなかったと思うんだけど、空間はちょっと混乱していた。結果として、ソージと片付けが全く出来ず、頭の中がかなり混沌としている人間が出来てしまった。

モンテッソーリの遊具を見ると、ものすごく並べたり比べたり移し替えたりしてみたくなる。私の中に眠っていて、あの時育たなかった子供が、どうやらチツジョチツジョと騒いでいるみたいである。

この本は、子育てをしている人必読だけど、なんとなくカオスな自分を持て余している人にもおすすめ。どこで曲がって今こうなったかが、なんかとてもよく分かると思います。(実感)