夕陽に向ってダッシュしていったとさ

今日はやたらに天気がよい。朝の日射しからしてUV指数がかなり高そうな気配。V市の夏は日本の夏よりも暑くないのだが、UVはむしろ強いんじゃないかと疑っている。どうやってUV対策をして夏を乗り切ろう、などと考えながら、とりあえず着てる服装とは全然マッチしてないんだけど野球帽を目深に被り、本日もV図書館に向う道すがら。

あれっ。昨日も噂してた例の「巨人の指」に建築会社の名前のついた旗みたいなのが掲げられてます。通行人に不審物と思われるんでレッテルを貼ったんだろうか。それとも、この会社史上に残るような、一大建築物でちょっと自慢なんだろうか。しかし、建築会社の名前なんかつけてみても、全然面白くない。やっと指も五本になり、完全に「手」になったのだから、私だったら凄くでかい手袋を作って被せるとか、隣りにじゃんけんのチョキを出してる手も作るとかして、V市の名所とするのになあ、惜しい。

そういえば、F犬街に居た時には、街の名所は「巨人の手を投げる勇者の像」とかいうやつだった。なんでもこの「手を投げる」を意味する古いオランダ語が鈍ってこの街の正式名称になったとかならないとか、そんな謂れがついていた。「巨人の手を投げる」って、変ですが、要するに切り取っちゃった手を投げてるんですね。お、気がつかずにしゃべっていたが、こちらも「手」。しかも「巨人」。なんという偶然の一致。これはもしかして、F犬街で勇者が投げた巨人の手が大西洋を超えて、米大陸も超えて、ウチの前の橋の脇に着地したのだろうか。なんという奇遇。やっぱりF犬街を経て、私がこのV市に流れ流れて来たのにはそれほど深い意味(必然性)があったのだ。...なんて。勝手な解釈をしながら、UVまみれになってゆく初夏の道。眩し。

さて、昨日から査定中の時給。いろいろと悩んだ末、2500円/時ということにさせていただく事にした。これは一体、高いのか、安いのか。V市の通貨で言うと30ドル/時。V市で見つけることのできるバイトでは、ほとんどあり得ないくらいの高給取りである。でも、日本で普通に就職している人でしかも私の年齢くらいの人からすると「安い」のかもしれない。$が絡む話になると結構弱気な私は、最初は時給1500円くらいにしておくか、とも思った。その方がなんだか気が楽だし。まあ、私のやってることなんて、どう高く見積もっても時給1500円くらいだよな...いや、時給800円でも高いかも...いや、100円でも...と、最初は思いっきり自虐に走った。でも、やはりここは自尊心を思いっきり発揮して、でもさすがに時給1万円とかはまだつける自信がないので、カワイく2500円にしといた。

本日より、一時間働くと、私は2500円の時給が貰えるのである。ああ、なんて素敵(あくまでバーチュアルですが)。なんだか身が引き締まるではないか。きっとそのうち昇給もあるだろう。さあ、働け! 自分のために、自分が自分にバーチュアルに支払うお給金という変なモンを貰うために、この一時間、悔いのないように働け!!

さて、人間の心理というのは変なものである。時給を決めた途端、昨日よりも、なんだか時間がやたらゆっくり流れてるような...。(数えてたでしょ、時間!)V図書館の机に向って、やたら時計をチラチラ見ていた私。すると。---まだまだ甘いな、そこの君。君の雇い主は君自身であるので、君の労働は全て君に帰って来る。給料も君自身で払うというところがちょっと痛いが、それ以外は夢のような仕事だろう? --- 確かにね。時間ばかり気にして、仕事のクオリティが落ちては本末転倒。--- 君の一分一秒の価値が上がれば、いくらでも時給なんて上げてやるよ、---と社長(誰だそれ)が囁く声がした。

一秒入魂。そのうち、時給じゃなくて秒給で要求しちゃうわよ、社長。あまりの一秒の濃さに、支払い不可能に陥っても知らないわよ。

できるなら、やってみな。と、社長はセクシーな声で言い捨て、それから高らかに笑った。(誰だよ、この社長)

そして、「私」は、何か熱いものを胸に秘めたまま、夕陽に向ってダッシュしていったとさ。ぽわん。

今日、スタジオにこんなのがやってきた。(メーカーはちょっと違うんだけど、まあこんなやつ)

誕生日プレゼントで貰ったの。これで、またどんどんちっこいヤツらと仕事できる、ぞ! (と、また夕陽に向ってダッシュしていったとさ。ぽわわん。)