夜の東新宿は、どこかSFの匂いがした

本日は、早朝の新幹線に乗り、今回最後の東京出動。N市にいる時には意外と暇だったりもするのだが、東京に攻め込む時は体力の限界との闘いになる。出動というよりは、やはり出陣だな。などと、やはり東京に出陣するらしいビジネスマンに囲まれながら、新幹線は新緑の中をゆく。

本日の第一章は、遠い昔からの友人(恩人)Tとそのお母さんとのランチ。この友人はざっと1000年くらい前から知り合いかもしれないなあとフと思っちゃうような、不思議なつながりのある人で、どうにもならないような時に命を助けられるようなことが何度かあった。お母さんにも何年か前にお世話になったことがある。

お母さんは広島出身で、本格的な広島風おこのみ焼き(お腹がすぐ膨れちゃうんでソバ抜き)を作ってくれた。
へえー。大阪風お好み焼きに慣れた目には、ものすごく新鮮な調理法。まず、生地がものすごくユルい。これを鉄板の上にクレープ状に薄く敷いて、この上に大量のキャベツ、もやしをのせる。野菜をここで山盛りにどれだけ入れられるかが勝負らしい。更に、とろろこんぶ、干しえび、天かす、ねぎ、広島名産の「イカ天」をのせ、最後に豚肉。ここに上から生地を少量、回すようにかける。そして、全体をえいっと裏返して、ヘラでぎゅうぎゅう押す。はみ出した野菜はクレープの下へ押し込む。さっき最後にかけた生地が野菜をつなぎとめる役割をするんだって。野菜から水分が飛んで、とろろこんぶやイカ天の旨味がじゅうっと野菜に浸透したあたりで出来上がり。もう一度裏返し、オタフクソースを大量にかける。ここで驚きだったのが、更にこれを半分に折り曲げて、三日月形にしちゃうとこ。三日月の上からも一度オタフクソース。湯気が、湯気が、ポワワ〜ン。

うまいっ。昼からビールなんか飲んじゃって、この上なく楽しいランチ。お母さんもとっても元気そうで、よかった。
帰り道に、近所のお寺を散策。Tの家の菩提寺なのだそうだが、とっても清々しい場所だった。
その辺に落ちているゴミなんかをささっと拾ったりして、檀家さんのお勤を果たしているT。えらいっ。そういう心掛けならば、きっとあなたに幸せが来るよ〜。とそっと心の中で呼びかけながら、私もゴミ拾い。カラスが、とっちらかしちゃうらしいの、ゴミ。

さて、Tとお母さんに別れを告げ、次に向ったのは神田。行きつけのとんかつ屋のマスターとおばさんにサヨナラ言うために。もっとゆっくり友達連を連れて行きたかったんだけど、今回は時間切れとなってしまったのでした。とんかつを食べている時間すらなかったのだが、しばし歓談。いってきます。いってらっしゃい。こうやって、帰って来れる場所があるから、また会いたい人がいるから、私は遠い世界の彼方でも生きて行けるのだなあ、と、感謝。またもやカンドー。

おばさんもマスターも、店の外まで出て、見送ってくれた。じーん。ぐすん。

と、心を熱くしながら飛び乗った中央線は新宿に走る。

新宿アルタ前でカリスマ編集者K氏と待ち合わせ。彼は学生時代からの友人でもある。この人もまた、1000年くらい前にインド辺りでさらっと会ったことがあるんじゃないか、とフと思うような人である。前世うんぬんがあるかどうかはともかく、ご縁というものは、有り難いものだ。お茶を飲みながら、F犬街でのアート修行時代、V市での隠遁生活の話などいろいろと聞いてもらう。なんだか無駄ばかり多いこれまでの人生だったのだが、海外で痛い目にあったような身をもってした体験が、いつか誰かの役に立つのであれば、本当に嬉しいなあなどと思いつつ。

と、時計は9時を回り。えええっ、と驚く私を後に、K氏は会社に戻って行った。すごいなぁ。これからまだ仕事なんだって。ごくろうさまです。体に気をつけてね。

なんて言ってるくらいだから、自分の方はこれからまっすぐホテルに戻りそうな気配だけれど、実は今夜はもう一つ合戦が残っている。ひょえー。夜の東新宿ですよー。なんだか、合戦をバトルと言い換えてみた途端に、東新宿の街がマトリックスの中の未来都市みたいに見えて来た。

そこに現われたのは、夜の強者(変な意味じゃないよ)、美術ジャーナリストのSさん。夜9時、10時なんて宵の口という、そういう意味での強者である。深夜を過ぎても、原稿書きをしてることなんかザラ。この方の強靭な体力、強靭な脳、そしてアートへの深い愛にはいつもカンドーさせられる。さすが、夜の強者、10時を回っているのだが「まずは腹ごしらえ」とコリアンタウンのレストランへ。ひょえー。ここもまたSFっぽいな。このあたりは、東京に住んでた時にはほとんど来たことがなかった。近年益々国際度が高まっているらしい。石焼ビビンバに海鮮チヂミ+生ビール。うまいっ。と、私もSさんの体力知力に負けじと食べる、食べる。その合間に、いろんなアート情報を聞かせてもらう。へえ、ほお。おもしろっ。こんなバトルなら、いつでもやりたいわ。何て幸せなバトル。

それにしても、この道20年のSさん。つつけばいくらでも面白い話が出て来る。ああ、やめられない。とまらない。

と、Sさんが、この近所に最近作った「新拠点」に連れて行ってくれるという。ここからは、もう、現実だったのか夢だったのか分からない。夜の未来の新宿。ネオン。廃墟。猫の一鳴き。その一角に現われた新拠点は、一見、街の診療所のようなところであったが、この中でどうやら、アートを巡る営みが行われることになるらしい。怪しい。危険。イカしてる。

どうやら、Sさんはいよいよアートのブラックジャックと化し、アートの診察、アートのレントゲン撮影、アートの切開手術(アートの処方箋などももらえるかも)などをここで行うのであるらしい。

こういう強者アートジャーナリストがいるから、アーティストもうかうかしてはいられない。これも一つのバトルであるけれど、これまた幸せなバトル。いつかSさんに真剣勝負を挑むためにも、また、日々修行に励もうと心に誓う夜であった。
あ、猫がまた横切る。夜風が心地よい。