正調ジャパンな異空間へようこそ

高山の朝といえば、朝市。
心地よい朝の空気の中、なぜか錦鯉がたくさん泳いでいる川縁に並ぶ市を散策する一行の姿があった。
飛騨牛の串焼きの店などもあって、食べたい気持ちは盛り上がるが、何しろさきほど山盛りの朝食をホテルで食べたばかり。散策のみにとどめておこう...って言ってたはずなのに、既に「飛騨濃厚牛乳 朝市限定」などという看板の方にふらふらと引き寄せられて行く息子。牛のマーク、アイスクリームのマークなどを見ると、息子は必ずこのように魂を抜かれた人のようにふらふらと引き寄せられてしまうんだな。ってのは、日本の乳製品のレベルの高さにもう随分前から脱帽しているのですこの息子。と、あれよあれよという間に牛乳瓶一本を購入しラッパ飲みを開始。それで腰に手を当てたら立派に日本のおやじだよ、あなた。ものすごく濃くて美味しい牛乳。あっと言う間に瓶が空になっていく。

高山の町家見学。いやすごい。お金持ち。お大尽。柱が太い。ええもの持ってる。京都で町家に泊まっていたとーちゃんかーちゃんは、余裕で高山の町家もクリア。鉄砲階段をサラリと上がり下りして、商家のお宝コレクションにじっと見入っている。お茶におせんべいのサービスなども出て、くつろぐ3人+一羽連れ。こういう山里の町家というのもいいなあ。

高山のいい雰囲気に包まれながら、次に一行が向ったのは高山祭りの屋台を展示している会館。いや、すごい。豪華絢爛。こんなものが街中を練り歩くのか。高山っていうとさるぼぼだくらいにしか思っていなかったピヨコも、この京都の向うすら張って行けそうな山間の街の底力に唸り声を上げている。そうか、『飛騨の匠』って、こーいうことだったのか...。祭り会館の隣りにはその飛騨の匠の技術を発揮して作ったという日光東照宮のミニチュアなども展示されていて、かーちゃんが「ドールハウスみたいでスキ」とか言いながらやたら喜んで眺めていた。ピヨコはミニチュアの中に『三猿』を見つけようとして必死。ありました。でも、あんまりちっこいので、どこがどう猿なのか、よく分かんなかった。ぴ。

祭りの屋台と言えばからくり人形、ということで、人形が動くところを見せている会館も訪問。じんわり〜っとド観光アトラクション臭たっぷりの場所であるが、牛若丸と弁慶の人形の五条橋の上での闘いの様子や、恵比寿様がカパっと獅子に変身するからくりなんかを見せてもらい、一同満足。これ、祭りの時に見たらすごいだろうなあ。と、こういうモノが大好きなピヨコはさっきから嬉しさのあまり嘴がカポカポ言っている。人形からくりってのは、しかし、言葉も要らないし、インターナショナルエンターテイメントであるなあ。素晴らしいです。と、一同笑顔。

さて、高山市内を堪能して本日の宿・正調純和風温泉旅館へと移動した一行。宿のマイクロバスが到着するなり従業員のおじさん×3くらいが玄関前で直立&お辞儀でお出迎え。この日本のホスピタリティーの極地とも言える温泉旅館のウェルカムにとーちゃんかーちゃんも目を白黒させている。そして、一分の隙もないタイミングでウェルカムドリンクを運んで来る仲居さん。この温泉旅館はロビーがやたら広い上に、建物の中に池があって、金銀赤白の丸々と太った錦鯉が泳いでいたりする。しかもロビーには足湯が。畳み掛けるリゾートのオーラに、興奮気味のかーちゃん。女性は特別に好きな柄の浴衣ピックのサービスなどもあり、紫陽花柄のシブい浴衣をセレクトするかーちゃん。そして、やたら迷った末に、水色にピンクの朝顔の浴衣を選び、るんるんしているピヨコ。おいおい、大丈夫かピヨコ。なんだかまた一人で浮かれてない? るるるっ。だってだってだって〜。ピヨコもこんな豪華温泉旅館に泊まった事は数えるくらいしかないので、結構ドキドキものなのである。

さて、お部屋。こちらも正調温泉宿。床の間に掛け軸と生け花。殿が座るような座椅子に肘掛け。っと、ここでピヨコにはちょっとした心配があった。座れるのか座椅子。豪華温泉旅館であるが、この部屋にはいわゆる「三点セット」つまりソファー&テーブルが備え付けられていない。なんとなく座り心地の悪そうな民芸調の椅子が入口脇あたりのライティングデスクに2つあるのみ。っと、不安は的中。とーちゃんかーちゃんは、結局滞在中一度も殿の座椅子には座らなかった模様。侮るなかれ、椅子文化。日本人ならば「どぅは〜」などという魂の奥から漏れ出るリラックス音を響かせながら畳にどどーんと横になったりするところなのだが、寛ぎの体勢が違うらしいです西洋人。と、文化比較をしようと思った所で、浴衣姿で畳に足を投げ出して、やたら寛いでいる息子。これは文化の違いというよりは、慣れですかね。世代ってこともあるのかもね。ぬーん。

更に謎の一つであった、「温泉にとーちゃんかーちゃんは入れるのか」。結果としては、とーちゃんは完全に温泉にアジャスト。かーちゃんはやはり裸で共同入浴というスタイルに馴染めなかった様子。しかしあらかじめピヨコトラベルではかーちゃんのために貸し切り露天風呂を手配しておいたので、そちらは入って頂けたようである。とーちゃんは息子と共に、普通の大浴場も攻略したとか。浴衣にちゃんちゃんこをひっかけたとーちゃん。やたら似合ってる。好々爺という日本語そのもののその姿、その笑顔。ピヨコも思わず、安堵の口笛。ぴゅ〜。

もう、これ以上ないというくらいの盛りだくさんな一日の〆は、豪華夕食。これでもか、これでもか、と出て来る懐石の品々。それにしても、懐石料理ってのは、見た目は奇麗だけど、なんだかよくわからんようなモノが出て来て、それでも日本人はなんとなく食べてしまったりするものだが、よくこんな謎の物件を食べるね、とーちゃんかーちゃん。息子よりもむしろ、とーちゃんかーちゃんの方が冒険野郎なのかもしれぬ。じゅんさい入りの椀物とか。あんまり面倒なので中身が何なのかピヨコはもういちいち通訳するのを断念しているのだが、わかんなくても食べちゃうとーちゃんかーちゃん。ありがとう。偉い。素晴らしい。かーちゃんは器の美しさ、盛りつけの妙にやたら感心している。夕食のクライマックスはやはり飛騨牛でしたねえ。いや、素晴らしい牛だ。石焼ステーキになって登場。自分で焼いて食べる形式なのだが、この時だけやたらとーちゃんかーちゃん&息子の動作がスムーズ。さすが、肉を焼かせたらやっぱりアメリカ人。手慣れたものである。

この後、食事中に忍者によって既に部屋に伸べられていた布団を見て、たぶんとーちゃんかーちゃんは仰天したことであろう。湯煙、食べきれない程の料理、真四角に敷かれた布団。この異空間、異次元、異時間を楽しんでくれたかな、とーちゃんかーちゃん。その答えは、さっきからちゃんちゃんこ姿で頬を上気させているとーちゃんと、ワインで酔っぱらがっているかーちゃんのはち切れんばかりの笑顔の中にあったのかもしれないなあ。