古都の懐ですうすう眠る

平和の街、広島に別れを告げ、一行は一路京都へ。広島駅の構内で買ったサンドイッチを車内で頬張るとーちゃんかーちゃん&息子。飲食弁当アルコール公式OKの日本の電車旅にも慣れて来た様子で、リラックスしつつつまむサンド。別にフツーの白食パンのミックスサンドなのだが、やたら「美味しい」を連発するかーちゃん。「ポーションも良い」とのこと。要するに、あんまりでかすぎないちょこっと食べできる分量が良いってことらしい。確かに、デカいもんな、アメリカのサンド。食べながらにしてできる日本のダイエット。かなり食べまくっているとーちゃんかーちゃん&息子であるが、アメリカでの通常の食事カロリーに比べたら、ちょろいもんである。

京都駅に到着。宿のチェックインの時間まで京都駅見物。展望台まで登って行くエスカレーターで、既に興奮の声をあげる一行。ミスタードーナツの看板を見つけて、なにやら嬉しそうなとーちゃん。本家アメリカではミスタードーナッツは既に存在しないブランドなのである。日射しが熱い。思わずサングラスを取り出すかーちゃん。そして「サングラスの調子がちょっと悪いのよねえ。レンズが枠から外れそうになっちゃってて」と一言。

それならば、と駅ビルの中の老舗デパートIの眼鏡売り場へ直行。さすがは老舗デパート勤めの眼鏡職人さん。「こういう枠に切れ目のあるタイプは、レンズを少し大きめに入れないといけないんですけど、レンズがジャストサイズに切ってあるので、外れやすいんですよ」とか、きめ細かなアドバイス。枠の曲がりを直してくれて、なんとか使えるようにレンズを調整してくれたが、大きめのレンズに将来的には入れ換えるのがおすすめとのことであった。調整料、無料。プロの腕の光るサービスにかーちゃんも感激。ピヨコもじーん。

そのままデパートでのお土産ショッピングに突入したかーちゃん。目の色が変わっている。高品質ときめ細かなサービスが際立つ日本のデパート。売り子さんがなかなか見つからないがらーんとした米国デパートとは雲泥の差。かーちゃん曰く「イギリスのハロッズみたいね」だって。無事に娘への土産ブラウスなどを購入したかーちゃん。まだデパートに未練がありそうな様子であったが、とーちゃんと息子は女性の買い物につきあうザ・男性陣の典型とばかりに、さっきからその辺のソファーでぐったりしているので、買い物はこのあたりで切り上げて、本日の御宿に直行。

林立する観光ホテル、高級ホテルを尻目に、タクシーが停まったのは一軒の家の前。シブい。ピヨコセレクションによる本日の宿は、OLさんやオバサマ方に今大人気という町家を改造した片泊まりの宿・一棟貸し。大きなスーツケースが通過できるのかってくらいちっこくてかわいい入口。とーちゃんかーちゃんは初めて入る古い日本家屋に目を白黒しているが、若くて素敵な宿守さんの笑顔のウェルカムが眩しい様子。ピヨコはパチンと音をたてて閉まるドアの金具や、カギみたいなのがぶらさがっていて、それを穴に突っ込んでクルクルクルっと締める昔の建具なんかを見つけてコーフンしている。

畳の部屋で過ごすのは初めてのとーちゃんかーちゃん。たぶん心の中はぐわんぐわんと波打っていたりするんだろうが、藤のロッキングチェアーに座って、早くも本なんぞを読んでいる。なかなかどうして和室にもマッチしてますよ、ご両人。しかしながら、やはり畳の部屋で欧米人初老夫婦が快適に過ごせる秘訣は、なにがしら座れるものがあるかどうかにかかっているようである。この御宿にはロッキングチェアーをはじめ、ビーンバッグソファーや小さな椅子なども設置されているので、その辺りはさらっとクリア。

さて、夕暮れ迫る頃、夕ご飯ハンティングも兼ねて、ぶらりと外へ出た一行。徒歩10分程の南禅寺境内を散策。どでかい三門にいきなり感動する3人。息子は写真撮りまくり。残念ながら参詣時間は過ぎており、禅庭は見られず。青紅葉と苔が美しい。

更にぷらぷらと平安神宮前を通り、宿守さんから聞いた石焼ピザの店へ。なんでも毎日空輸でイタリアからチーズやら酵母やらを取り寄せているんだそうである。うまいっ。イタリアの横町で食べるようなピザの味。京都でいきなりのナポリピザ。なぜかしらずベルギービール・シメイ青など飲みながら既に京都にノックアウトされつつある息子。とーちゃんかーちゃんも、日本の食の奥行きにはすっかり脱帽らしい。

宵。初めての布団の上で寝るとーちゃんかーちゃんの上に、優しい町家の時間が流れ、ピヨコはなぜか子供時代を思い出しながら、この家は呼吸しているなあ、魂がある家ってのはこういうものなのだなあ、などと、懐かしさと温かさに包まれてすうすう眠っている。息子はつんつるてんの浴衣からにょきっと足を出したまま、ぐうぐう鼾をかいて寝ている。幸福な宵。時間が止まったような、遠い懐かしい日々に逆戻りしたような、静かで、柔らかな夜であった。