未来のおっさんらよヨガパンツを履け!

V市にいと多きもの。寿司屋。中国人。ヨガ教室。
...と思いつくだけでも、音加庵から半径1キロくらいの範囲にヨガ教室がざっと4,5軒。犬も歩けばヨガに当たるとはV市のことを言うのであろう。当然ヨガグッヅ、ヨガショップもあちこちに多し。有名どころではlululemon(ルルレモン)というお洒落なヨガショップが大人気。このルルはV市発祥のブランドなのだけれど、今や東京にもショップがあるというカナダ発で珍しく全国区に進出した例であるらしい。

たかがヨガなんて油断してると大変です。高いですよ、このお店。そしてV市におけるムスメ・ファッションの基本はこうしたブランドヨガショップにて購入したロゴ入りヨガパンツ、ジャケット、バッグなどであり、街中にこのヨガ装束が氾濫。そもそもヨガパンツというものは伸縮自在でお尻にピタっとフィットしているものであるから、美少女のお尻の線が完全露出のまま公衆の面前に出現といった事態が日常茶飯に起こり、しかもヘソ出し腰骨系ヨガパンツ、肩甲骨の辺りまでどこまでもカットの深いぴちぴちヨガタンクトップなんかもこれから夏場にかけては続出するわけで、どうしてもヨガウエアが部屋着もしくはパジャマ系の服飾カテゴリーに見えてしまう私の眼はやり場を無くして、とても困惑するのでした。美少女はまあ良しとして、お尻ラインくっきりが犯罪に近い体型もしくは年齢の人も当然中には居るわけで、別の意味で眼のやり場に困ることも多し。でもまあ、アクティブですな。V市。緩いです、服装。極端な話、銀行の窓口の人がヨガ教室の帰りみたいな格好してることもある。なんとなくそういうところにお金を預けたくないなあ、と思ってしまうのはこちらだけ。フレンドリー&アクティブってことで、この街ではヨガウエアはもういっそオフィシャルウエアにしちゃった方がいいかもね。というくらいに、日常に浸透している。

いや、まて。オフィシャルウエアにはあと2つ候補があるんだった。アウトドア系とアイスホッケー系。これも街中でよく見かける。要するに、街中の人の1/3がヨガウエア。1/3が山登り系キャンプ系アウトドアウエア。そして残りの1/3がホッケージャージー。もちろんジャージのロゴはV市のチームであるカナックス。但し、ホッケージャージーの人々は試合のある日にしか出現しないし、ヨガウエアは女性中心で、男のヨガウエアぴちぴちはあまり見かけない。アウトドア系は男女とも。ということはV市のオフィシャルウエアはアウトドア系で決定だな! 

なんて、勝手なことを言いつつ、話がそれたが、ヨガである。

とにかく犬棒ヨガであり、猫も杓子もヨガという土地柄であるから、私もいつの間にか気がついたらヨガ教室に通っていた。歩いて5分。気楽なご近所ヨガ。でも、さすがに最初はちょっと緊張した。ヨガっていうと、お香を焚いて、マントラ唱えて、鼻から入れた紐を口から出したりして、胡座を組んだまま逆立ちさせられたり、海老ぞりみたいな形を強要されたり、するのかなあ、と。神棚みたいなのに向って瞑想させられたり、微笑み合ったりするのかなあ、と。とにかく子供の頃家にあったヨガ本の写真があまりに強烈で、そこに映っていたインドのヨギたちは髭が1メートルくらいあってあばら骨が見えるくらいの激やせ。片手で体を支えて水平に浮いたり、自分の両足を首の周りに引っ掛けて人間鳥籠みたいな形を作っていたり、もうすごいのだ。

あれは仙人の境地。自分には無縁であるとずっと思っていたので、ついつい杓子持った猫になりヨガ教室の門戸を叩いた時には、腰がモロ引け。お香もしくは瞑想が出たら、即とんづらしようと思っていた。ん? あれっ? 思ってたのと雰囲気違います。良い意味で。このナチュラルな空気は、何?...。思わず知らずリラックスしちゃってるよ、まだ何のポーズもやってないのに。お香も焚いてないし、髭もガリ痩せもなし。いきなり片手で逆立ちさせられるなんてこと、全くないし。先入観とは恐ろしいものである。ここは私の先入観が描いていた薄暗い部屋に曼荼羅+ロウソクという怪しいスタジオではなく、明るく機能的な雰囲気で、知的でユーモアたっぷりの先生の笑顔が素敵だったりしちゃってるスタジオだったのである。拍子抜け。まあ、流派にもよるんだろうが、このナチュラルにして知的なご近所ヨガはアイアンガーヨガという、小道具をたくさん使ってやる近代的なヨガで、それでこの風通しの良さがあるのかも知れぬ。ホッと一息。

その先生曰く。「ヨガって本来は、脳の働きを静めるのが目的なのよねー」。ヨガのポーズというのは、それ自体が体のいろんな部分の意識を目覚めさせ、穏やかな呼吸と共に体全体を使ってやっている瞑想みたいなもんなんだって。日常生活では脳の前の方ばっかりを酷使して意識が波立っちゃってるんだけど、ヨガにはそれを静め、普段使っていない脳の後ろ側や奥の方を目覚めさせる効果があるんだってさ。頭ってのは使えばいいもんじゃないってことに今更気づいて驚く。使い方を間違えたり、同じとこばっかり使ってると、どんより疲れちゃうのね、脳。前の方を使わずに意識を静めることによって、脳の別の部分が穏やかに活性化される、この感じ。新鮮。

そういえば、禅の瞑想に凝ってるおっさんが、前に同じようなことを熱く語ってたな。意識的に使うことができない部分が脳の潜在的な能力の大部分なので、それを活性化するには、能動的に頭を使うような方法は一切駄目で、瞑想が一押しなんだ! と。脳の潜在能力は手の届かないところにある宝の山のようなものなんだってさ。で、そのお宝を手に入れるには、日常とは別の脳の使い方をしなきゃ駄目なんだってさ。ヨガはそれを体全体でやるところが更に良し。過激な知的労働、日々の仕事で疲弊しつつも、密かに自分の潜在能力をもっと引き出したいなんて思っているビジネスマンなどにはもってこいのエクササイズである。でもね、なぜかヨガ教室の生徒は女性、有閑マダム系が目立つ。ちがーう。もっと過激なストレスにぜーぜー喘いでいる、会社社会でメッタメタに虐げられ、脳の前の方が加熱して火を噴いているような男たちにこそヨガ、なんじゃないだろうか。ズバリ言おう。私はむしろ世の男性諸君、おっさん軍団にもっとヨガをやっていただきたいのだ。ヨガパンツがぴちっとキュートなおっさん軍団。ラブリーである。知的である。カワイイ〜である。その柔らかに覚醒した男達がこれからの世界を救う、ような気がする。私が会社の社長なら、即座にヨガスタジオを社内に設立。だな。ほらほら。頭の前の方、駆使し過ぎですよ、そこのおっさん。リラックスしてね、え、どうやって? まずはヨガパンツ購入してください。え、体操着で参加してもいいですかって。もちろん許可! ゴルフクラブは持って来なくていいですからね。念のため。