地球人阿呆度保存の法則

テレビのドキュメンタリーをぼんやり見ていたら、なんでも今、アメリカでは銃がバカ売れなんだという話がはじまって、思わずなぬーっっと凝視。えええええー。目を疑った。目が血走った。映し出された「銃フェア」の会場にはおっさん中心に長蛇の列。女性の姿も結構見える。会場には所狭しと拳銃猟銃銃弾弾丸が並べられ、その間を行き交い、値踏みし、ガン・ショッピングにいそしむ人々の姿。えっと、あれと、これと、あっちとぉー。なんて、これじゃ週末に洋服を買い漁るOLみたいじゃないか。あらら、銃弾なんか鷲掴みですよ。買う方も買う方だが、売る方も売る方である。「このピンク色の猟銃は、女性に大人気だよ、おら!」なんて、猟銃にファッション入れてどうすんだよ。そして、なんと恐るべきことに、アメリカの銃所持法にはちょっとした法の網目があって、そこをうまくくぐりぬけると、身元確認も、身辺調査も何もなく、誰でもスーパーマーケットでトイレットペーパーを買うようなノリでガンが買えちゃうなんてことが起こっちゃうのだそうだ。ガーン。(冗談じゃないよ!)まあ、このドキュメンタリー自体がちょっと大袈裟に煽ってるような風でもあり、アメリカのテレビ番組なんてのも信用しすぎると逆に危ないってことがあるので、この情報だけではなんとも言えないのだけれど、ともあれ銃を巡る人々の動きに何らかの変化が出ているというのは本当らしい。

このニュースドキュメンタリーによれば、突然訪れた希代のガン・ブームは、オバマ政権成立と関係があるのだそうだ。つまり、オバマさんがそのうち銃の規制に手をつけることが予想され、それを懸念した銃保持賛成派の人たちが、それこそトイレットペーパーの予備を買い漁る調子で、一生分の銃や銃弾を規制のない今のうちに買っておこうという、そういう事情なんだそうである。

で、今やアメリカ国内の銃マーケットは高騰。銃弾は品薄になり、通常は300ドルくらいだった猟銃が600ドルくらいに値上がりしてるんだそうだ。ああーん? 600ドル? 6万円? たったの6万円で、誰でも銃が買えちゃうってわけ? いやはや、アメリカという国は、とっても変な国である。世界経済を引っぱり、科学技術を引っぱり、合理的かつ先進的な国であるというイメージの一方で、その辺のおっちゃんたちは今でもウエスタンのノリから卒業できないでいる。ハンティングの為に銃が欲しいという人も一定量いるらしいが、近年「自衛」という目的で銃を欲しがる人が増えている模様。まったく、アメリカのおっちゃんら、時代錯誤も甚だしい、あんたら何わけのわからん行動とってんの...って、実は事情はそれほど単純でもなくて、この辺りのアメリカ人と銃を巡る複雑かつお口あんぐりの事情に関してはマイケル・ムーア監督の『ボウリング・フォー・コロンバイン』で詳しく説明されているのだが、人々の恐怖心を煽って儲けている人が必ず裏にいるわけでもあり、政治的な利権がからんでいたり(アメリカのコンサバ政権は銃保持賛成派団体とつながりがある)と、なかなか一筋縄ではいかない。

ともあれ、ご近所のおばさんも実は密かに銃を所有してましたとさ〜なんて状況を想像すると、それだけでストレスが溜まりそうであるが、その総体としての国民的な不安、日常における心理的ストレスはかなりのものであると推察される。銃という道具ほど、用途が狭く極端に特殊化された物も珍しい。まあ、ごますり器とか、餅つき器とかそういうたわいのない特殊化なら笑って済ませるが、この場合ぜんぜん笑っていられない。ナイフは果物の皮を剥くのに使えるけど、銃は命を奪うということ以外には使えないものね。その「命を奪う」、という部分を「自分を護る」と頭の中で置き換えることで、銃保持者はなんとかして安堵を得ようとするのだろうけれど、やっぱり銃というものは根源的な不安と結びついているようであるなあ。

それにしても、この銃の話なんかを聞くと、世界というところは、人間というものは、インターネットだの、ケータイだの、ロボットだの、ロケットだのと、進歩進展しているように表面は見せかけておきながら、根っこのところは、随分と野蛮なままであったり、恐るべきナイーブさの中に留まっているという、一体これはどういうことなんだろうかと、不思議でなりませぬ。もちろんこの「阿呆な人間」「無知な人間」「何かに憑かれた人間」およびその意味不明の破滅的営みというのはアメリカだけの話ではなく、銃という話だけではなく、いろんな国でいろんなものに形を変えて現われてるわけでもあり。地球ってところは、人間ってもんはまだまだ進歩の過程にある未完成のものだから許してね、ということなのか。それとも人間の総体的阿呆度は結局エネルギー保存の法則のようにいつまでたっても一定に保たれざる得ないものなのか、その不思議に首を捻りながら、惑星Nから着た宇宙人の気分で物思う朝。ピコピコ。んー、なぜ? なぜ?? なぜ???