家なき人々

さて、ホームレスであるが、こちらはホームレスが大変に多いのである。なんでもカナダの他の街は冬になると普通に氷点下20度とか30度を記録。家のない彼らは凍死の危機に晒されるっていうわけで、気候が良くて冬でもマイルドな西海岸、特にこのV市にカナダ中のホームレスが流れ着くのだそうです。こちらのホームレス、駅などにダンボールの家を作って主に夜中に活動する日本のホームレス軍団とはやや赴きが異なり、神出鬼没、ダウンタウンにも、倉庫地帯の裏通りにも、更にはウチのビルのゴミ置き場にも、いやはやあちこちに日を問わず時を問わず、わやわやと出没している。朝、フとゴミ捨てにいって、金属のデカいゴミコンテナの中で何かが蠢いてるのにはさすがに驚いた。入り込んでますよ、おっちゃん。お仕事中でした。それ以来、このビルのセキュリティーは強化されたのであるが、それでもおっちゃんたちは隙あらば街中のありとあらゆるゴミ箱にダイブし、集めるのです空き瓶空き缶。と、書いているその窓の前に懸かる橋の上に、今しも行くは収穫物の山、ぎゅうぎゅう入りのビニ袋ポリ袋を押し込み、それでも入りきれない袋を外側に目一杯くくりつけたショッピングカートをうんしょと押して、日曜日の透明な光の中をゆく、ホームレスの歩の重さ。

このショッピングカートが街中に出没。もしくは、巨大なビニール袋の直接背負い。バスの中で乗り合わせることも多し。集めているのはここでもまた空き瓶空き缶。これをリサイクル場に持って行くとデポジットを換金してもらえるというわけだ。V市の空き瓶空き缶の争奪戦は激しい。街中に設置されている公共のゴミ箱に手をつっこんでるの図があちこちで目撃され、こりゃあこの街のリサイクル率はかなりのものだろうなあ、と変なところで感心したりする。だがしかし、そのついでに容器に残ってる液体をその場で飲んだりしてるの図もつい見ちゃったりするわけで、やはりとても悲しい。ちょっと寂れたモールのフードコートで、じっと座って人が食べ終わるのを待っては、食べ残しをチェックして食している若い女の子に遭遇したこともあった。悲しい。一体どうなってるのだろうかこの世界、悲しい。

とはいえ、まあリサイクルに貢献もしてるのだし、ホームレスでもいいんじゃないの、ってこともあるが、実際には事情はもうちょっと深刻だ。イースト・ヘイスティング通りはドラッグでほとんど廃人と化しているホームレスの溜まり場。ここは時々車で通過するのだが、まるで地獄絵である。屈強なカナダ人の男性が「あそこはオレも昼間でも一人では歩かん」と言っていた。横断歩道を頭のないハトの半分をぶら下げた男が奇声を上げながら渡る。のを見た時には、さすがに背筋が寒くなった。ドラッグで骨と皮ばかりになった娼婦が厚化粧にミニスカで男らをどつき回している。社会の歪み、貧困、差別、暴力、病気、いろんな不都合の吹きだまり。この人たちもまた、望んでこうなったわけではないであろうに。

観光客に人気のガスタウンなんてのも、この地獄絵からそれほど遠くない場所にある。日本人観光客が、あらこれカワイー。ステキー。おっしゃれー、などと言いながらVサインで写真に収まっている裏路地あたりでこういう殺伐とした悲しい世界が日々展開されているのである。まあ、都市というのはどこでもそんな風にオモテとウラがあるのだろうが、ウラの方は観光資源にもなんにもならないからという理由だけで無視あるいは隠蔽されがちなのだけれど、ここまで表立って来ると、一体どうなってるんだと気になり始めてしょうがない。世界で一番住みやすい街ランキングでいつも1位か2位くらいに輝いているこのV市だからなおさら、うーん。と私は悩むのだ。本当に住みやすいのかしら、この街。おっさんおばさんに聞いてみたい。