人間の手の業

6年振りくらいで、マッサージ受けてみた。
とはいえ、プロのマッサージの経験は過去一度だけ。アーユルベーダ・マッサージとかいうやつで、全身油まみれ、更には巨大な壷から流れ落ちるオイルを額の真ん中に落とす(チャクラでしょうか)というやつで、それはそれは気持ちよかったのだけれど、あんまり前のことなので、よくは覚えていない。

今日のマッサージは、deep tissue massageというもので、でもたぶんアロマオイルなんぞを香らせながら、ローブにでも着替えさせられ、ハーブティーなんかを勧められ、アロマキャンドルが灯って、リラックス系の音楽が流れるところでお姉さんが世間話でもしながら軽く揉んでくれるスパのようなものなんだろうと予想していたら、すばらしく本格的なマッサージで感動した。

最初に質問用紙を渡されて、どこを集中的にマッサージして欲しいかなんてのを書かされた。そこに「マッサージ中のおしゃべりは好きですか?」とかいう項目があったので、あまり多めでなければ、と書いておいた。

担当のお姉さんは、ちょっとはにかんだ感じが可愛い、しかし体格がよくて、しかも繊細そうな女性で、会った瞬間にいい予感がしたのだけれど、途中ほとんど一言も余計なことを言わずに揉みに集中してくれた。どういう流派なのか知らないが、上手い。強すぎず弱すぎず、絶妙の手加減。そこ、そこ、まさに、そこ! 私も途中一言も喋らなかったが、心の声はいちいち嬉しい悲鳴を上げていた。

それにしても、今出会ったばかりの人に、こんなにも丁寧に自分の体の手当をしてもらうって、不思議な感覚だ。マッサージ師ってそういう仕事なのだから当たり前なのだが、暗い部屋の中で、彼女の手に自分の体を委ねているうちに、なんとなく宇宙の真ん中に自分と彼女の手だけが浮いているような感覚になって、人が人を癒すということの神聖さが満ちてきた。

「ありがとう。すばらしかった」

としか私には表現できなかったのだけれど、伝わったかなあ感謝の気持ち。私はこの女性Jさんのことは何も知らないし、彼女も私のことは何も知らないが、彼女の手と私の体は小一時間コミュニケーションしていたのだから、私たちは随分と深いところで出会っていたのかもしれない。

いつもは40度しか回らない首が90度くらいまで回るようになって、
視野がやたらに開けて驚いた。