センチメンタル

暑かった。
今年一番の暑さ。たぶん、「暑い」という言葉が一日に8回くらいこぼれ出た。
海辺のBBQに誘って頂いて、
頭は野球帽でカバーしていたのだけれど、
帰って来たら、サンダルの隙間のところが日焼けしていた。

晩方になって、近所のオーガニック・スーパーまで買い物に出掛けたのだけれど、
まだ少し日中の暑さが空気の中に残っていて、
でも心地よく透明に冷えはじめている宵で、
夏の放物線が下がり始めた予感の、
少し諦めに似た感じ、
はしゃぎすぎた後にはっと入り込んだ空白の蔭のある
舗道を歩いていたら、
eternity
もしくは
諸行無常

ふっと過った。

この見慣れた近所の風景。
もう、何年も、何回も、何十回も、ここを通過した、
なんのことはない、ホームセンターの赤いネオンサイン。

でも、本当に私はそれを見ていたのだろうか。

ここから去る時(それは、誰にでもいつかは必ず訪れるものなのだが)
私は一体、何を見ていたのだろう、
何も見ていなかったのではないかしら、
などと、
ちょっと寂しい気持ちになる、
その時になって、
ああ、もっとじっと見ておけばよかった、
この街の隅々と、仲良くなっておけばよかった、
などと、
ぽっかりとした心持ちになる、
そういう時間の心持ちが、
繰り上がって、今すっとやってきた、
そういう奇妙な懐かしさ、いとおしさが、
とめどなく流れ込んできて、
勝手に少し泣きたいような気分になる。

まあ、これは夏の終りのはじまり気分なのであって、
終ってしまえばまた、何事もなかったかのように、
何にも見ることなく、
別段悲しくもなったりせずに、
街を歩き回るだろう。

ただし、このセンチメンタルな心持ちというのは、
笑い飛ばすには大切すぎて、
どちらかと言えば、人間の根源の何かと繋がっているようで、
この悲しみとも喜びともつかぬ不思議な気持ちを
丁寧に味わいながら、
鼻歌を少し歌って、
フラフラと彷徨ってみた。