天上界の公園

夕暮れ時に、遠くまで自転車。
途中でものすごい上り坂があって、半分くらいから降りて歩いた。
この坂を登り詰めたところに公園があって、そこから海が見える。
初めて、そこに行った。
海には下の方が赤い船が浮かんでいる。
遠くから何かを運んで来た船が、荷を降ろすと軽くなって、
それで下の方の赤いところが見えるようになるのだって。

海の向うには山。この山が、もうやたらにデカい。
Vに住んで、もう8年くらいになるかな。
それなのに、この山のデカさには、未だに慣れない。

この公園のある辺りは、Vでも一等地の閑静な住宅街で、
一軒一軒がとても大きくて、やたらに静かだ。
下界に住んでいる私には、あまり縁のない一角なので、
通り過ぎることもほとんどなかったのだけれど、
こうしてやってきて、一息ついてみると、
はあ、確かにVは素晴しい街である。
こんなに美しい街は、そうそうお目にかかれないだろう。

フサフサの白い大きい犬がやってきて、
私の目は釘付けになる。
10時になっても、まだ明るい海辺を通過して、
下界すなわち我が家に帰る道すがら、
ああ、この美しい街に住むという、
そんな贅沢を、私は随分と無駄にしてきたなあ、と
でも、いつもそんな風に時間は過ぎるものなのだなあと、
ちょっとキュキュっと何かが内側でざわめいた。

逆に言うと、夕焼けなどというものが大好きなので、
あまりそれに重きを置いたならば、
このような美しい街では、毎日夕暮れに泣かなければならず、
いちにちいちにちが過ぎて行くことが切なくて溜まらないであろう。
そうならないために、
どうやら、少しばかり鈍感に、
知らんぷりして、愚痴なんかもこぼしながら、
淡々と毎日を過ごす方法を思いついた、ということなのかもしれない。

この夕暮れ時の時間の濃度を一遍に吸い込んだりしたら
そのまま気絶しそうであるからして。

☆ 短夜やいつまでもいる陰二つ