玉藻よし 讃岐の国は

また朝からぐんぐん電車を乗り継いで、四国のT松へ行く。
T松は今や私の第二の故郷になった。懐かしい笑顔が待っている場所。
今日は、瀬戸大橋を渡ったらT松のひとつ前のS出市で降りるようにと指示されて、
雨がしとしとと降る中、沙弥島という絶景スポットに連れて行ってもらった。
柿本人麻呂万葉集に「玉藻よし 讃岐の国は 国柄か 見れども飽きぬ 神柄か ...」と詠んだ長歌の中にも登場するという床しい浜辺。
残念ながら雨で海原は灰色で、浜辺には誰一人いなかったのだけれど、かえってその寂しさの中に、ずっと忘れられないような情感がぽつんと佇んでいる姿が見えた。
「忘れ貝」という貝の片方を持っていると、忘れられない恋人が忘れられるのだという、そんな密やかな話を讃岐の俳人に教えてもらった。

そのあと、東山魁夷せとうち美術館へ。
海原を描いた小品群の色は素晴しく、晴れた日の瀬戸内海の光を想像した。
とても静かな午後。
その後、世界の奥底、空の向こう側が見えるような友禅の作品を観に行く。すかーんと通り抜けたような作家の方の存在そのものも心地よく、短くも濃厚な時間を楽しむ。

T松に到着。まずはうどん。そう、まずはうどんの国なのだここは。
もっとずっとそこにいたかったのだけれど、
その笑顔の時間のなかに、ずっといたかったのだけれど、
電車の時間は迫り、
また発車ベルが鳴る。
なんでいつも、来たと思うとさよならばっかり。
ピヨコすら、今日はちょっとおセンチな気分になりながら、
少し晴れ間の見えて来た瀬戸内海のきらめきを、目の奥の方に焼き付けていた。