肉体の勝利

今日はVにロシアのアート集団が来ていて、マルチな演劇? をやるというので、シアターに出掛けた。このグループAKHEとは、プラハで7年前くらいにご一緒したことがあって、その時のイベントというのが3週間くらい現場に朝から晩までいて、その間に一日に何度も即興的なパフォーマンスをやるなんていうもので、要するにその現場に住んでいるみたいなものだったので、お隣のエリアで何やら面白そうなことをいつもごちゃごちゃとやっているAKHEの面々とも、いつの間にか知り合いになったのだった。

ビジュアル・アーティストである男性2名がグループの中心人物で、舞台の上に登場する小道具からビデオの中に登場するアート作品まで全て彼らの手で作ったもの。東欧系のアーティストはどうしてだか知らないのだけれど、質感のあるむせ返るようなマテリアルを使うのがすごく上手い。すごい迫力。抽象的なのだけれど、やたら説得力がある。この男性二名(おっさん2名と言っても良い)の舞台上でのキャラクターは、アート道化師という感じで、舞台の上を所狭しと駆け回り、オブジェを散乱しまくり、ワインは浴びるし、パンは千切りまくるし、奇麗なお姉ちゃんは裸になって牛乳のシャワーを浴び始めるし、Vではなかなかお目にかかれない濃厚でクレージーな舞台に血が騒いだ。

舞台の上には新聞紙が散乱、ワインや牛乳や、水やパン屑や、火を燃やした燃えカスなんかでもうぐっちゃぐちゃなのだけれど、ビジュアル的には何とも言えぬ美しさと深みがあり(照明も音響も秀逸。なんだかロシア映画の一シーンを見てるみたいだ)、魔法みたいな瞬間もたくさんあり、同時に笑える。何でも、デジタルとアナログの闘い、みたいなのがちょっと作品のテーマにあったらしい。実はなかなかハイテクなことをやっているのだけれど、おっさん達は体を張ってもうぐっちゃぐちゃどろどろになって奮闘。こういう舞台を見ると、人間の肉体って愚かだけれど、そこがたまらなくチャーミングだなあと思う。

終演後、AKHEの面々と再会。7年振りだったのだけれど、覚えてくれていて、なんだかちょっと恥ずかしいような、不思議な楽しさだった。

劇場を後に、トラムに飛び乗って帰宅。トラムだよ! そう、オリンピック期間中のみ、V市はブリュッセルから最新型トラムを借りて、走らせているのである。F犬街に住んでいた頃のことが蘇り、迫力満点魅力満点のロシアのアート野郎達と再会したばかりでもあり、なんだか自分がどこの場所のどこの時間にいるのか、よく分からなくなった。透明に冷えて、美しい宵であることだけは、間違いなかったのだけれど。