天才じゃなくてよかった。

天才っていいなあ、自分が天才だったらなあ、天才に生まれたかったなあ、などと天才に憧れる人にオススメの映画を観た。
この映画は間違いなく天才を記録した映画である。天才というものがどのようなものであるかが恐るべき迫力で伝わって来る。

クラム [DVD]

クラム [DVD]

ジャニス・ジョプリンのアルバム"Cheap Thrills"のジャケットでも有名なアメリカの漫画家R.クラムとその家族を追った映画なのだけれど、いやはや、凄い。
まずR.クラム自身が映って「変なおじさんだなあー」と思っていると、その兄弟はもっと変で、お母さんも、変。ページをめくる毎に狂気が放物線を描いて天に昇って行く(あるいは地に堕ちて行く)悪夢の中のコミックブックを読んでいるみたいな気分。しかし、R.クラム本人はもちろん、廃人と化しているお兄さんのC.クラムもまた、間違いなく天才なのである。

いやあー、絵が上手いなあ。ペン描きの線の一本一本が生き物みたいに蠢いている。全体のバランスを取ってから描くのじゃなくて、端っこから描き始めて、こちちょこちょ描いてるうちに、いつの間にか外にあった世界が紙の表面に刻み付けられて、もう一つの世界になる。描くことと生きることがほぼ完全に一致している。呼吸するのと同じ気楽さでペンが走る。でも、この映画を見終わった後に、凡人でよかったー、と思わず呟きたくもなる。赤い靴を履いた踊り子が死ぬまで踊り続けなければいけないように、果てしなく描き続けなければいけない宿命。それもなかなか辛そうなのだ。

チープ・スリル

チープ・スリル